2025.05.28配信
「街中で1時間も歩けば、自社の製品をみかけます。お子さんが背負うランドセルのカバー、大人が持つブランドバッグ、観光客が持つバッグ…。『あ、あれうちで作ったものだ!』と気づく瞬間が、一番うれしいです」
そう話すのは、梁川裕貴(ヤナガワ・ユウキ)さん(38歳)。東京で三代続く日本製バッグメーカー株式会社マルヨシの代表取締役だ。
趣味の多様化でランドセルカバーが主力商品に
マルヨシでは、さまざまな事業を展開。学校指定カバンやキャラクターアイテムなどの子ども向け製品が約45%、人気ブランドの日本製OEMが約35%、海外工場で生産のOEM製品が約20%を占める。
「経営で常に意識しているのは、”決まった業種のなかでも、事業の柱は複数持つべき”ということです。柱が1本では、企業として不安定になりますから」
主力製品のひとつは、年間売上げ約25万枚のランドセルカバー『まもるちゃん』だ。色とりどりな透明のカバーがランドセルを傷や汚れから守る優れもの。子どもの肩や背中の負担を軽減する肩パッド、背パッドもラインナップする。
まもるちゃんを開発スタートしたのは2010年ごろ。当時は、ランドセルの色は男子が黒で女子は赤といった常識がまだあった。
「お子さんや保護者から『使いたいランドセルがない』といった声を聞くようになったんです。価値観に合わせて、もっと多様な選択肢を提供したい。そんな思いがあり、縫製メーカーとして技術を生かせるランドセルカバーの開発がスタートしました」
当初は、主力製品といえるほどの売れ行きはなかった。しかし、商品の中身が見えるクリアケースのパッケージに変更したことをきっかけに、店頭での認知度が高まり爆発的なヒット製品に。
「想定外のニーズもありました。赤いフチの製品は女の子向けと考えていましたが、男の子から『戦隊ヒーローみたいでカッコいい!』という声をもらったんです。社内では、小学生のお子さんがいるパパ・ママ社員の声も参考にしながら、商品の開発や改良を進めています」
保護者が黒のランドセルをすすめても、子どもは赤を選ぶケースもある。
多様な色やデザインを選べるランドセルカバーは子どもだけではなく、購入する保護者や祖父母のニーズも満たす。
「ランドセルは1つ7万円前後と決して安くはありません。そのため、親御さんが慎重になり、意見を言いたくなるのもわかります。ランドセル自体は保護者や祖父母と選び、ランドセルカバーはお子さんの好きなデザインにする。そうすれば、世代問わずみなさんにご納得いただけると思います」
通学カバンにランドセル以外の選択肢を
さらに、2024年3月からは『RUNDO』(ランドゥー)で新たに、小学生向けのスクールバッグ事業へ参入した。
「ランドセルは時代の移り変わりで高価格となり、ご家庭の負担が大きくなりました。また、荷物もどんどん増えていて、お子さまにとっても大変になってきています。『誰もが手に取りやすく、共通で使える通学カバンを提供したい』と考えたのが、開発の原点です」
マルヨシではRUNDOを“次世代型ランドセル”とうたう。実際、見た目こそランドセルだが、手に取ってみると従来品とはまったくイメージが変わる。
軽量化によって、ズシリと重い教材などを日常的に背負う小学生の負担を低減。カバーの付け外しが可能で、卒業後はリュックとしても使用できる。
「今はランドセルではなく、別の形が求められる時代だと思っています。実は、小学校では一般的に、通学カバンとしてランドセルを使わなければいけない決まりはないんです。自社の縫製技術を生かして『現代のお子さんに求められているものを形にしよう』という思いで完成したのがRUNDOで、現在も改良を重ねています」
父と会社を支えてくれた職人への恩
学校指定カバンの製造からはじまった会社は、梁川さんの祖父が創業者。二代目の父から受け継いで自身は三代目の代表取締役に。中学時代から家業を手伝っていたが、祖父も父も「会社を継いでほしい」と言わなかった。梁川さんは人生の転機を振り返る。
「私が中学、高校、大学と進学できたのは会社があったからです。今いるメンバーたちが頑張って会社を存続してくれたおかげだと心から思っています。学生時代から良く知る会社を支えて成長させてくれたメンバーたちはもちろん、そのお子さんたちがちゃんと学校を卒業できるように頑張りたいなと思い、入社を決めました」
代表取締役就任後、コロナ禍での危機も。外出自粛が求められる風潮のもとで、ブランド製品の受注が15%減少。2020年5月にはコロナ禍以前から建設していた千葉県銚子市の新工場が完成したが、緊急事態宣言の発令によって稼働を停止した。
それでも、“ものづくりを絶やさないために”と、コロナ禍となる以前から築いていた職人との絆を糧にピンチを乗り切った。
「職人さんたちは会社員と違って、仕事がなければその月の収入がないので、仕事を辞めて縫製業自体から離れてしまうこともありえます。その状況を深く理解して、工場で生産予定だった製品すべてを、職人さんによる生産に切り替え、職人さんの仕事を減らすことなく過ごせました」
コロナ禍で事業縮小を余儀なくされる企業に支給された助成金も活用。工場では仕事の代わりに研修によって技術向上を図り、助成金によって収支の安定と両立させ、職人の仕事も守ることができた。
この取り組みにより“職人を大切にしてくれる会社”だと評判を呼び、全国から「マルヨシと働きたい」という声が多く寄せられた。現在は250名以上もの外部の職人と連携する。
「コロナ前からものづくりを絶やさないための活動として、今まで横の繋がりがあまりなかったという職人さんたちやベテランと若手をつなぐ勉強会などを積極的に主催してきました。その結果、今度仕事をしましょうという話に繋がっていきました」
近年はインバウンド需要も視野に。海外からの観光客が日本のお土産を持ち帰るための大容量バッグ『ポケッタブルバッグ』にも力をいれる。 そして、海外への製品輸出に意欲も。
「日本で作られる精密なものづくりやデザインの洗練さを、アジア諸国に向けて展開していきたいと考えています。アジア全体が豊かになってきているので、今まで“生産国”として見ていた国も今後は“消費国”として注目していかなければならないと感じています。海外の方にとっても、我々の商品が選択肢の一つになれたらと考えています」
日本のものづくりは、世界に通用すると信じて。日本製バッグメーカーの誇りを胸に、マルヨシはこれからも新たな挑戦へと歩みを進めていく。
株式会社マルヨシ
東京都文京区千駄木3-48-5 map
03-3828-2131
https://www.maruyoshi-bag.jp/