2025年12月18日配信
「『ラーメンを食べに行こう』ではなく、『ビスクを食べに行こう』と来てくださるのが本当に嬉しいです」
そう語るのは、東十条駅近くにある6席のみの小さなラーメン店『La Maison du Ramen ビスク』(ラ メゾン デュ ラーメン ビスク)を営む合同会社bisq代表の新井源己(アライ・ゲンキ)さん(36歳)。

「TRYラーメン大賞2023-2024」にて、新店【オリジナル】部門を受賞。メディアからも注目を集めるこの店は、既存のジャンルにとらわれない独自の製法を使用したラーメンで、訪れる人々を魅了している。
他店と比べられない“唯一無二の一杯”を
「他とはかぶらないラーメン店をめざして開業しました。海老や牡蠣そのものが乗っていなくても、一口スープを飲んだだけで素材をしっかり感じられる――そんなラーメンを作っています」

そう話すのは、ビスクの調理担当で源己さんの妻・菜月さん(34歳)。
菜月さんが調理、源己さんが調理補助・接客・バックヤードを担当する。これが二人のスタイルだ。
ビスクの人気商品の一つが「あさりカルボ 税込1,200円」。菜月さんが働いていた横浜の人気ラーメン店『丿貫』(へちかん)での経験を活かし、ビスクの開業に合わせて作り上げた看板商品だ。
鯛を長時間煮込んだ白湯スープをベースに、ソース状のあさりやチーズを合わせた洋風ラーメン。さらに表面には泡状のエスプーマのような仕上げも施されている。クリーミーな鯛白湯にあさりの旨味がしっかり溶け込み、チーズのコクが後から広がる、優しくも満足感のある味わいとなっている。

もう一つの人気商品が「オマール海老ラーメン 税込1,200円」。シロクチイワシとアジを合わせたスープをベースに、オマール海老を丸ごと贅沢に使用した一品で、鮮やかな色味のスープが特徴だ。まろやかな甘みと海老の香ばしさが合わさり、口に入れた瞬間ふわりと旨味が広がる。麺とよく絡み、スープのコクをしっかり引き立ててくれる贅沢な仕上がり。

来店客の6割が注文するという『和え玉』は、味がしっかりついた替え玉。麺だけでも一品のように楽しめるほか、残ったスープに合わせれば、また違った美味しさが広がる。

源己さんがワインの卸会社に勤めていた経験を生かし、店ではラーメンに合うグラスワインも提供している。
「ワインは単体でも美味しいのですが、料理の良さを引き立ててくれるところが魅力なんです」と語る源己さん。
魚介ベースのスープは相性が難しく、生臭さが出てしまうワインも多い。それでも妥協せずに探し続け、ついにビスクのラーメンすべてに合う一本を見つけ出した。

「グラスワイン 税込850円」。イタリアシチリア島のワイン『COLPASSO』(コルパッソ)を使用。はじめの一口はフルーティーな甘み、後半には柑橘のような爽やかさがふわりと広がる。
女性にも気軽に楽しんでもらえるラーメンを
ビスクは、菜月さんのならではの感覚を活かした店作りが特徴だ。女性も気軽に楽しめるラーメン店を目指したという店内には写真映えするタイル張りのカウンターや、お箸・レンゲを手渡しする心配りなど、細やかな工夫が施されている。実際、来店客の半数近くが女性だという。

ラーメンの“見た目”にもこだわりは強い。
「パッと見て、“これはビスクのラーメンだ”と分かる盛り付けにしたかったんです」
バラの形に仕立てたチャーシュー、泡状に仕上げたスープ、オマール海老の鮮やかなオレンジ色——視覚的にも美しい一杯を追求してきた。

一人でも気軽に訪れやすい空間と、目にも楽しいラーメン。そんなこだわりが、訪れる人々を魅了している。
料理好きから、“自分の店”を開くまで
もともと大の料理好きだった菜月さん。学生時代には旧姓を冠した 『入江食堂』というイベントを開き、毎月20名ほどの友人に手料理を振る舞っていた。この頃から「将来は飲食業界に進みたい」といった気持ちが強くなったという。
大学卒業後は希望通り飲食の道へ。その後、2016年から『丿貫』でアルバイトとして働き、のちに正社員へ。結婚を機に源己さんとともに、2022年、『La Maison du Ramen ビスク』をオープンした。

当時サラリーマンだった源己さんも、菜月さんの独立を機に脱サラ。
「二人で食べていけるくらいなら大丈夫かな、と。やるなら一人より二人のほうが心強いと思いました」

何百回もの試作を重ねてたどり着いた味
しかし、開業までの道のりは決して平坦ではなかった。
「まず物件が見つからなくて。最初は土地勘のある中央線沿線で探していましたが、予算に合う物件がなく、範囲を広げました」
最終的に選んだのは東十条。下町のような落ち着く雰囲気と、人気ラーメン店が多く街に馴染むと感じたからだという。
ただ、東十条は比較的物価が安いエリアで、1,000円を超える高価格帯のラーメンを提供するには勇気が必要だった。
「1,000円を超えても食べていただけるようなラーメンを作らないとな、と。でも原価率を下げて90%の味のものを出すのは納得できないと思っていて。100%『美味しい』と言えるものだけを提供したいので、コストは惜しまずかけています」

メニュー開発も試行錯誤の連続だった。
「何度試しても味が決まらなくて、結局1カ月半くらい、二人で毎日始発で来て終電までずっと試作をしていました」
オープン日も2度延期。周囲が「美味しい」と言っても、自分たちの中では「もっと海老みその濃厚さを」と納得できず、煮干しの分量を何百通りも調整した。
好みの近い二人だからこそ、決め手の一杯ができた瞬間、自然と“これだ”という感覚が一致したという。

開業後も、新メニューの開発は欠かせない。
2024年より、夏季限定で「冷やしラーメン専門店」として営業。炎天下でも連日長蛇の列ができるほどの人気を集めている。
また今冬は、昨年好評だった季節限定メニューの『あん肝だくだくまぜそば』と『蟹みそ和え玉』をブラッシュアップして提供する予定だ。

左から「あん肝だくだくまぜそば 税込 1,500円」、「冷やし牡蠣ラーメン税込 1,500円」、「冷やしオマール海老ラーメン税込 1,300円」
新たなラーメンのカテゴリーを目指して
「店を大きくしたいという気持ちもあります。でも、まずは見える範囲でリアクションが返ってくることを大切にしたいですね」
一気に広げるのではなく、一歩ずつ進んでいきたいと源己さんは語る。
6席だけの小さな空間には、丁寧に整えられたカウンター、会話が届く距離感、そしてお客さま一人ひとりに向き合う姿勢がある。その温かさが店にやわらかな空気を生んでいる。

「いつか新しいラーメンのカテゴリーを作れたらいいなと。二郎系や家系のような存在になれたら面白いなと思っていて」
二人三脚で丁寧に歩み続ける『La Maison du Ramen ビスク』。ラーメン界に“ビスク系”という新カテゴリーが確立される日も 、そう遠くないはずだ。その歩みを、これからも静かに見守っていきたい。

La Maison du Ramen ビスク
東京都北区東十条4-10-6グリーンコーポ101 map
最新の営業時間はInstagram参照。
https://www.instagram.com/ramen_bisque/


