谷中に広がる“ねこだらけ”の世界 ワクワクを届ける WAKUWAKU YANAKA

谷中に広がる“ねこだらけ”の世界 ワクワクを届ける WAKUWAKU YANAKA

2026.5.1配信

猫の街として知られる東京・谷中。夕焼けだんだんを下り、谷中銀座商店街から一本細い路地を入ると、ひときわ印象的な空間がある。

店内を埋め尽くすのは、どこを見ても猫、猫、猫。

「猫は“自由の象徴”みたいな存在なんです」

そう語るのは、『WAKUWAKU YANAKA』店主で、ワクワク合同会社 代表社員の佐山愛さん。

“ねこだらけ”のアイコンを軸に、『ねこだるま』や『美濃焼コースター』など日本の伝統文化と掛け合わせた作品も展開しているが、その原点は売る考えもなかった一枚の絵から始まったという。

「私の絵って、売れるんだ」と気づいた瞬間

「もともと絵を描くことは好きではあったんですけど、それで食べていくっていう発想はまったくなかったですね」

そう振り返る佐山さん。大学卒業後は絵画販売の会社に就職し、その後IT企業へと転職。絵はあくまで“趣味”として続けていた。

転機となったのは、2010年ごろに通い始めたイラストスクールだった。ミスタードーナツのイラストで一世を風靡した原田修氏が主宰するスクールで、プロの仕事に触れる機会を得たという。

「プロとして活動している人たちの話を聞いたり、実際の仕事を見たりして、こんな仕事ができたら死んでもいいなって思うようになって」

その思いに背中を押されるように、自身の作品を発表する機会を得る。国内最大級のアートイベント『デザインフェスタ』に参加したことが、佐山さんの価値観を大きく変えた。

「商品はポストカードだけ持っていきました。けど一人のお客さまが展示用に飾っていた原画を指して、『この絵が買いたい。出展しているブースを全部見てきたけど、私の家に飾りたいと思ったのはこの絵だけだった。』とおっしゃって」

「『私の絵って、売れるんだ』と衝撃でした。まさか原画を買いたいって言われるとは思ってなくて値段も決めていなかったくらいです」

“家に飾りたい”と言ってもらえたことで、自分の絵は誰かの生活の中に入り込んでいくものだと気づいたという佐山さん。

この出来事をきっかけに、「描くこと」は個人的な楽しみから、誰かに届けるものへと変わっていった。

猫とだるま、日本のものづくりと向き合う理由

作品の多くに猫が登場する理由について、佐山さんは「特別に選んだというより、自然と描いていた」と話す。

「小さい頃からずっと家に猫がいて、身近な存在だったんです。だから気づいたら、絵の中にも当たり前のようにいるというか」

そうした日常の延長にあるモチーフが、やがて自身の表現の軸となっていった。

その猫と、日本の伝統を掛け合わせた代表的な作品が『ねこだるま』だ。

「もともとだるまを使ったクリエイター向けの企画に参加したのがきっかけで、立体に描く面白さに気づいたんです」

真っ白なだるまに向き合い、耳や表情を加えていく中で、徐々に現在のスタイルが形づくられていった。

現在は高崎のだるま職人と関わりながら、型の制作から手がけ、商品として展開している。

他にも美濃焼のコースターなど、各地の伝統工芸品とのコラボレーションにも積極的に取り組んでいる。

「日本の伝統工芸ってとても良いものなのに、そのままだと少し距離を感じる人もいると思うんです。そこに自分なりの表現を掛け合わせることで、もう少し身近に感じてもらえたらいいなと」

古くからあるものを“変える”のではなく、“楽しみ方を広げる”。そんなスタンスが、作品づくりの根底にある。

明るくなりたい”という言葉に支えられて

活動を続ける中で印象に残っているのは、お客さんからの言葉だという。

「病気で外に出られない方が、“この絵を飾って明るくなりたい”って言ってくださったことがあって」

作品そのものだけでなく、その先にある感情に触れた瞬間だった。

「もちろん作品を買っていただけるのは嬉しいんですけど、それ以上に、“この絵を飾っていると元気になった”とか“楽しくなった”って言ってもらえたことが、自分にとって一番意味のあることだなと気づきました」

作品タイトル「よりそう」。人の感情や日々の積み重ねに思いを巡らせて描かれた一枚。

2025年には、美濃焼コースターが『東京TASKものづくりアワード』にて「審査員のイチ推し製品」に入選。文化性やデザイン性が重視される場でも、その表現は評価されている。

「美濃焼コースターは機能として新しいものではないのですが、“このデザインが面白い”って評価していただけたのがすごく嬉しくて。自分のやっていることが間違ってなかったんだなと思えました」

このころにはテレビ出演も果たし、販路も大きく開拓。

現在はロフト銀座店などの文化的商業施設でも販売されているほか、4月21日からは、上野の『東京都美術館』開館100周年記念のコラボレーションとして、ミュージアムショップに作品の展示・販売が行われている。大型作品「お祝いのねこだるま ねこだらけ16号」をはじめ、ねこだるまやぱんだるまなど約30点の小作品も展開。12月31日までの記念期間を通して、展示やグッズ展開なども予定されている。

東京都美術館にちなんだ『ねこだるま』。美術館の外壁タイルやパンダなどをモチーフにした表情豊かな作品

活動が広がる中でも、作品を手に取ってくれた方の想いを大事にしたいという軸は変わらない。会社名の『ワクワク合同会社』にも、その想いが込められている。

「絵を通して、少しでも気持ちが明るくなるような、そんな体験を届けたいんです」

作品だけでなく、空間や体験も含めて“ワクワク”を届けていく。その一つひとつの積み重ねが、誰かの日常をほんの少し明るくしていく。

楽しさを届け続けるために

一方で、事業として続けていく難しさも感じている。

「もともとお金を目的にやっているわけではないので、そのバランスをどう取るかはずっと課題ですね」

制作に集中するための体制づくりや、価格設定、販路の拡大。アーティストとしての感覚と、経営の視点との間で模索が続く。

「お金って“応援”でもあると思っていて。作品の価格が上がるほど、“それだけの価値があるのか”って自分自身に問いかけるようになるんです。いただいた分だけ、それに応えられるものをちゃんと届けていきたいです」

現在は海外展開にも力を入れ、台湾での展示や販売にも取り組んでいる。谷中という場所での手応えを感じながら、その先へと視野を広げている段階だ。

「日本でも海外でも、“楽しい”って思ってもらえるものを届けたいという気持ちは変わりません。見た人の気持ちが少し軽くなったり、思わず笑顔になったりするような、そんな“ワクワク”を広げていきたいですね」

猫を軸としたクリエイティブを通じて、誰かの日常に“ワクワク”を届ける。一つひとつに向き合い、価値を問い続けるその歩みは、この先も谷中の街から広がっていく。

WAKUWAKU YANAKA
東京都台東区谷中3-12-17  初音テラス1B map
11:00-18:00
定休日:祝日を除く月・火(イベント等による不定休はSNSでお知らせ)
HP:https://www.a-sayama.com/
Instagram:https://www.instagram.com/wakuwakuyanaka/