「3つの命」を守る。和道工業が担う保線工事の使命

「3つの命」を守る。和道工業が担う保線工事の使命

2026.6.12配信

多くの人びとが寝静まる深夜。鉄道の線路を煌々と照らす明かりのもとで、汗を流す人びとがいる。鉄道のいたんだ線路を補修する、保線工事の人びとだ。

1979年設立の和道工業株式会社は創業以来、軌道(レール)の新設工事や保線工事の事業に注力してきた。京成電鉄や北総鉄道など、千葉県を中心とした首都圏の主要鉄道の安全を守っている。

周囲の後押しを受けて会社初の女性経営者に

「もともとは別の仕事に就いていたんです」

そう語るのは、代表取締役の髙橋妙子さん(64歳)。創業47年目の和道工業は妙子さんの父・茂彦さんが立ち上げた会社だ。

妙子さんが転職したのは、父の友人に「あなたもお父さんの会社で働いてみたら?」とすすめられたのがきっかけだった。

「入社当初は、男性ばかりのイメージがあった土木業界の常識も分からず、社長の娘というプレッシャーも強くて大変でした」

その後、2008年に茂彦さんが逝去。2012年に妙子さんが3代目の代表取締役となった。

「経営に関する知識がなく、お話しをいただいた当初はためらっていました。ただ、周囲のみなさんが『私たちがバックアップしますから』と背中を押してくださって、父の意思を継ごうと決断できました」

男性中心の職場の中で、妙子さんは日頃から「気づかい」を大切にしている。「現場での苦労や大変さをより深く理解するため、実際に現場へ足を運ぶこともあります」と話す。

軌道工事とは「3つの命」を預かる仕事

妙子さんと共に現場の従業員を見守るのは、軌道工事のスペシャリストで入社33年目の専務取締役・黒田高弘さん(65歳)だ。

「我々は、3つの命を預かっています。鉄道に乗る乗員や乗客のみなさんの命、鉄道の沿線で暮らす住民のみなさんの命、そして、工事現場で作業する従業員の命です。3つの命を守るために『手を抜かず、やるべきことを確実にやる』の姿勢を大切にしています」

和道工業では、社員教育にも力を入れる。そのひとつが、月に一度行われる「安全会議」だ。創業40年以上に及ぶ知見を活かして、工事現場での事故が起きないように従業員への教育を徹底。黒田さん自身の経験、意思もそこには反映されている。

「あわやの事態もたくさん目にしてきました。鉄道が走っている日中の作業では、危険性も増す。作業員のヘルメットが鉄道車両にかする事故を見た経験もありますし『常に緊張感を持たねばならない』と、従業員には伝えています」

現場からの質問や相談に迅速に対応できる体制づくりにも力を入れている。同社の高砂事業所には、実際の線路を再現した訓練線を設けており、新入社員教育や技術継承の場として活用している。

終電から始発までの3時間で工事を完遂

軌道工事では日中に準備を進め、鉄道の終電から始発までの深夜に本番の工事が行われる。「段取りがすべて。それがないと多くの人びとに迷惑をかけることになる」と話すのは、同社の高砂事業所で所長を務める大内順司さん(64歳)だ。

「深夜の作業は、1時頃から4時頃までの限られた時間で行います。始発があり、他分野の土木工事のように翌日へ持ち越すことはできないので、計画には余裕をもたせています」

高砂事業所には、レールをはじめとしたさまざまな資材や道具が保管されている。一般的なレールは1本あたり最大25メートルにもなり、種類や形状に応じて工事用運搬車やトラックで現場へ運搬されるという。

工事では、交換するレールの本数や距離に応じて必要な人数を細かく計算。限られた時間の中で、安全かつ確実に作業を終えるための綿密な段取りが欠かせない。

現場では、古くなったレールを熱で切断するための「切断機」や、重いバラストをすくい上げるために2人1組で押して引く「軌道用スコップ」など、保線工の人びとがあらゆる道具を使いこなし、汗を流している。

黒田さんと大内所長は会社のアイデアマンでもある。和道工業が培った技術を活かし、軌道工事の技術を駆使した製品開発にも取り組んでいる。交換用レールの受台、その名も『レール受台』は“発煙事故0”を願った特許製品のひとつだ。

「古いレールを切断するとき、火の粉が木製の枕木のヒビに入り込み、のちに発火する事故があるんです。日中であれば鉄道が止まってしまいますし、解決策はないかと思って開発しました」

2025年には、黒田さんにより改良を加えた『コンクリート道床用レール受台』を開発。

2026年2月には、新たな特許も取得した。

震災復旧工事にも参加、地域とのつながりも

こうした実績は、業界からの厚い信頼にもつながっている。2011年に発生した東日本大震災の当時、直後には福島から仙台にかけての復旧工事に参加。福島第一原子力発電所から30キロ圏に隣接する地域まで、地震や津波で寸断された線路の復旧工事にも携わった。

鉄道の安全を支える一方で、地域とのつながりも大切にしている。近年は、地元の飲食店が主催する子ども食堂への協賛にも取り組んでいる。妙子さんは、その意図を話す。

「日頃から取引のある城北信用金庫から地域貢献活動のお話を聞き、『私たちにも何かできることはないか』と考えたんです。年に一度のクリスマス。せめて、クリスマスらしさを味わってほしい。小さいけれど、ひとり一人にケーキをプレゼントしよう! そんな思いから活動を続けています」

100年企業をめざすために「企業は人なり」を貫いて

鉄道は地域に根ざし、私たちが気にとめることなく当たり前に走っている。その裏で奮闘する和道工業が創業50周年を目前とする今、黒田さんは「100年企業をめざしてほしい」と願う。

「鉄道は走り続ける。その当たり前を支えるのが我々の仕事なんです。まっとうするためには、やはり『安全第一』が最優先です。地道な作業の連続ですし『手を抜かず、やるべきことを確実にやる』の積み重ねが基本だと、これからも伝えていきたいです」

同じく会社の未来を見据える妙子さんには、創業者の父から継いだ「企業は人なり」の言葉が残る。

「従業員には『地味な仕事に思われがちですが、本当に誇れる仕事。プライドを持って従事して下さい』と常に伝えています。日々、いろいろな事を見聞きしながら私自身も成長していきたいと思っています。今後も意義のある仕事だと伝えながら、人材育成に力を注いでいきたいです」

誰もが使う鉄道は、社会に欠かせない公共インフラでもある。その安全を守るために、保線工の人びとが今日もまた、レールの上で汗を流し続けている。

和道工業株式会社
千葉県松戸市胡録台363-6 map
047-393-8203
HP :https://www.wado-k.co.jp/