お墓も将来設計する時代 越谷「のうこつの窓口」は安らぎをつなぐ

お墓も将来設計する時代 越谷「のうこつの窓口」は安らぎをつなぐ

2023.7.27配信

まもなくお盆休み。お寺に行って墓参りをする。いずれ自分たちもその墓に入り、子や孫に受け継がれる。地縁や血縁に結びついていたお墓のあり方がいま、揺らいでいる。

多様化するご遺骨の行き先

「家単位の伝統的なお墓、いわゆる一般墓にこだわる人は少なくなっています。日本社会が核家族化した段階で、先祖代々というあり方が変わってしまったんですよ」

そう語るのは、納骨コンサルタント『のうこつの窓口』を越谷市で展開する、株式会社縁(えん)の代表取締役、山下智弘さん(44歳)。

一般墓は、寺院や霊園に年間管理料を納め続けることが前提となっている。その支払いが滞ると、お墓を承継する人がいない無縁墓として扱われる。いつしかお墓は荒れ放題に。実に寂しい光景だ。

「自分にはお墓を継ぐ家族がいない。または残された家族の負担にならないようにしたい。元気なうちに理想のお墓を準備したい。そう考える人が増えた結果、お墓の形や納骨方法の多様化が進みました」

のうこつの窓口では、一般墓から樹木葬、納骨堂、散骨、永代供養墓まで、お客さまが望む情報を一括提供する。お客さまの状態や希望に合わせた提案を行い、ベストな納骨先を一緒に考える。

チラシを配布して反応があるのは60代以上の女性。男性は自身の最後について臆病な面がある一方、女性は現実的で自分たちや子、孫の将来を考えるからではないかと、山下さんは考察する。

住職も認める誠実さと行動力

納骨場所の確保も同社の重要な仕事だ。提携する寺院・霊園は埼玉県南東部に20カ所以上ある。

そのうちの一つ、越谷市にある浄土真宗本願寺派の光善寺「青光苑」は、一般墓、合祀塔、樹木葬の3タイプから選べる。

出会いは3年前。山下さんの飛び込み営業だったと、住職の富谷哲治(とみやてつじ)さんは振り返る。

「利に走る業者の方がたくさんいらっしゃるので、普通は話を聞くことも断るんですが、山下さんは誠実そうに見えたので、真摯にやってもらえるのかなと思ったんです。勘なんですけどね」

霊園の経営は自治体、公益法人、宗教法人と定められている。しかし、彼らはお墓のプロではなく、大方は石材店などの民間業者が実務を請け負う。

山下さんは “光善寺が開催する仏教講座に参加してはいかがでしょう”とお墓や樹木葬を買った人に案内するなど、お寺の活動に人が集まるよう動いてくれる。周囲に勧めるだけでなく、山下さん自身も講座を聞いて見学者の説明に活かす。丁寧なフォローに富谷住職は感心した。

業界大手が参加したコンペを制す

やがて青光苑に樹木葬建立の話が持ち上がり、複数の業者によるコンペが開かれた。

富谷住職と門徒総代、関係者合わせて約30人が話を聞いた。樹木葬の大手はプロジェクターを駆使した企画提案を8人がかりで行う。のうこつの窓口は山下さんが一人、大粒の汗をかきながらプレゼンを展開した。

全会一致で支持されたのは山下さんだった。

「大手のほうが確実に早く売れるんでしょうけど、山下さんは樹木葬を求める人の気持ちを一番に考えてくれると思ったんです」

2021年3月完成の「青光苑樹木葬」は山下さんの設計。ステンドグラスの技法を用いた青いガラスのオブジェで、夕方になると神秘的な光を放つ。

一定の年数が経過したら永代供養されることも相まって、越谷市全体で一番人気のある樹木葬だという。

一筋縄ではいかない墓じまい

来店者の相談で最も多いのは、田舎の墓を整理して、住まいの近くに移すかお寺で永代供養してもらう「墓じまい」に関すること。

やろうと思えば誰でもできることだからと、お店ではお墓の引っ越しの進め方を無料で教える。

「ただ、お寺との交渉はある程度の知識がないとトラブルになりかねません。弊社でも動いているのは私だけです」

納骨先が決まったら、今の寺院や霊園の管理者に申し出て、改葬許可申請証に記名捺印してもらわないといけない。

あるお寺での出来事だ。人生のエンディングについて考えていた人が役所の終活セミナーに出席したところ、講師がお墓の引っ越し代行を名乗り出た。住職は、長年付き合いのある檀家(だんか)さんから直接依頼されれば快く応じるつもりだったのに、講師があまりにぞんざいな対応だったため、話がこじれてしまった。

お寺にとって長年の関係を解消されるということは、支える人が減ることを意味する。そこでトラブルになるケースもある。

これまで山下さんはお墓の引っ越しの交渉を約130件成立させた。お寺から離れるときに納めるお金として200万円請求されたとき、仏教や葬祭に関する知識をフル活用しながら相談者とお寺の双方が納得できる提案を行い、3万円で合意したこともある。

相談者の安心感が一番の喜び

越谷市で生まれ育った山下さんは地元の大学を卒業後、お墓の販売を行う会社に入社。その後不動産コンサル業に転職し、霊園・墓石業界がいかに遅れているかを痛感したという。

相談者にとってお墓の問題は一生に一度あるかないかの大きな出来事。何をしたらいいのか困っている人に寄り添いたいと、40歳を目前に独立開業した。

お墓が決まって安心した、納骨先がひと段落したのでもっと長生きしたいと言ってもらえることが一番の喜びと、山下さんは笑みをこぼす。

「私は本当に運がいいんです。お客さまやお寺に恵まれることによって、のうこつの窓口というビジネスモデルを確立することができました」

霊園や法事の簡略化が進み、経済的に立ち行かなくなる寺院が全国各地で増えている。

縁あるお寺の永続を手助けするのも同社のミッション。そのためにも会社を潰すわけにはいかないと、山下さんは力を込める。

2023年7月にさいたま市の旧与野市域と上尾市に出店を果たした。2025年2月に代理店制度を導入し、2030年には全国200店舗出店という目標を掲げる。さらに海外進出や、インターネット上の仮想空間に納骨堂を開設するなどして、未来を生き抜く考えだ。

静まり返った寺院や霊園にあって、山下さんが手掛けた場所には温かい空気と澄んだ光が感じられる。

故人も終のすみかで、安心してくつろがれていることだろう。

のうこつの窓口
株式会社縁
埼玉県越谷市北越谷2-3-5 map
0120-5152-94
10:00~17:00
定休日:水曜
https://noukotu.co.jp/