伝説の鮨職人の思いを継承し変わらない魅力を守り続ける

伝説の鮨職人の思いを継承し変わらない魅力を守り続ける

ふと、おいしい鮨を食べたくなる。ぶらりと立ち寄って、握りにちらし、和食や地酒も楽しめて、時間と予算を気にせず至福のひと時を過ごす。

そんなワガママを受け止めてくれるのが、台東区を拠点に1都2県に14店舗を展開する『金太楼鮨』。大正時代から続く老舗の看板におごることなく、正統な江戸前鮨を庶民価格で提供する。

これぞ匠の技と納得の味

浅草寺の裏手にある馬道店は、料亭を改装した風情ある建物だ。重厚感を残しつつ、普段使いもできそうなカウンターに座ると、熱いお茶が出てきた。

つけ場に立つ職人はきびきびと立ち振る舞いながら、今の時期のお勧めや料理に合う地酒の銘柄を提案してくれる。

季節のつまみを味わっていると、やや小さめのシャリに鮨ダネがぴったりまとった端正な握りが次々と供される。

口の中に入れた瞬間、さっぱりとした酢飯が口の中でほどける。丁寧な仕込みが施された鮨ダネと混然一体となり、豊かな旨みが広がっていく。

「にぎり・上」一人前の場合、握りが8貫に巻物 、汁物が出る。 これで2,090円(税込)というから驚きだ。

安さの秘密は一括仕入れと信頼関係

3代目で代表取締役の間根山好洋さん(69歳)は、気軽に本格派江戸前鮨を楽しめると胸を張る。

「うちのモットーは、いい魚を仕入れて、良心的な価格の鮨をお客様に提供する。金太楼鮨ならカウンターで食べても安心ですから」

どの店も基本的なメニューは同じで、価格も統一されている。

お値打ち価格で提供できる理由は、本部の一括仕入れによる大量買いだ。専務取締役の髙橋和男さん(65歳)が毎日豊洲市場に通う。

保存技術が飛躍的に発達した現在、漁港からの直送をうたうスーパーや飲食店が増えている。

しかし、専務取締役の間根山周平さん(38歳)は、仲買人からの仕入れにこだわる。

「うちは長年、取引先と共に儲かる付き合いを大事にしてきました。金太楼共栄会というのがあるくらいです。」

きちんと支払うのは当然だが、お付き合いで向こうの都合を多少受け入れることもある。その姿勢から仲買人との信頼関係が育まれ、欲しい魚を回してもらったり時に値引きしてもらうことにも繋がるという。

多店舗化に伴い人材育成に注力

金太楼鮨を一大チェーンにまで成長させたのは2代目である先代の間根山貞雄さん。江戸前鮨の正統技術を持つ第一人者として知られ、1997年に東京都の「現代の名工」、1999年に国の黄綬褒章をそれぞれ受賞した。

大量に仕入れるには店舗を増やす必要があるという考えのもと、1960年代から多店舗化と新卒・中途採用に着手する。

当時、職人技術は“目で見て盗め”という時代だったが、それでは腕のいい職人は育ちにくい。貞雄さんはきめ細かい教育システムと独自の技術検定試験を導入した。

検定制度は、笹切、巻物、初級、中級とステップアップしながら技術を習得できるようになっており、合格者には昇給もある。

若手からベテランまで幅広い年代の社員がいて、切磋琢磨できることも強みだ。外部のコンテストにも積極的に参加し、「全国すし技術コンクール」の優勝者が何人もいる。

「うちの技術を身につけた人は、他の鮨店に行っても重宝がられるそうです」

初級合格者以上の希望者には細工巻物、中級合格者以上の希望者には細工ずしをそれぞれ伝授する。

細工巻物・ずしは多様な具材を用い、花や動物、家紋などの図案を織り込んだもの。

現在、細工ずしを作ることができる人は全国的に見て少なくなっているそうだが、金太楼鮨の職人たちは繊細で美しい細工ずしを作りあげる。

自由な発想を鮨に盛り込む

江戸前鮨は、冷蔵庫のない時代、鮨ダネとする生の魚や貝類の腐敗を防ぎ、かつ、おいしくするための加工が施されたもの。金太楼鮨はその技術の伝承に力を入れる一方で、独創的なメニューも生み出した。

手巻きずしの一種である「ねぎとろ巻」(440円税込)や「シソ巻」(220円税込)は仕事終わりの賄い飯として誕生し、興味を示したお客様から徐々に広まっていった。

ウニにイクラ、マグロ、納豆、山芋などを小鉢に盛った「ばくだん」(990円税込)も金太楼鮨が元祖だ。

揚げものや焼きもの、サラダなどのメニューもバリエーション豊富で迷うほど。このような一品料理が鮨屋では当たり前でなかった頃から提供しており、店の魅力の一つとして浸透している。

時代は変われども名工の技と味を継承

鮨業界で成功を収めると、東京都心部に出店して、高級路線に走る店は少なくない。しかし、金太楼鮨は鮨屋の激戦区・浅草を中心に、町鮨のスタイルを守り続ける。

「お金を出してもらえばいくらだっていいものはできるけどね。お手軽な値段で提供できるっていうのが一番のポイントかな」

その価値を求めて地元の人はひいきにし、遠方からもお客様が訪れる。

店内飲食だけでなく、出前や職人の出張も対応している。戦前の町鮨は店売りよりも出前のほうが多かったそうで、金太楼鮨も「一人前でも配達します」が昔からのモットーだ。

内閣総理大臣官邸で祝賀会等が催されるときは官邸調理室からお呼びがかかり、かれこれ30年以上出入りしている。会食がきっかけで店に足を運んだ大使もいるそう。

国内外の要人をも魅了する金太楼鮨。創業100周年はもう目の前だ。

令和の東京で、江戸前鮨の職人としての気概と名工の教えを胸に、毎日のれんを掲げる。

金太楼鮨 馬道店
東京都台東区浅草3-35-10 map
03-3875-3075
11:00〜23:00 ※営業時間は異なる場合がございます
不定休
http://www.kintaro-sushi.com/