姉妹と地酒の個性がキラリ 飲んで語れる「三益酒店」

姉妹と地酒の個性がキラリ 飲んで語れる「三益酒店」

旨い地酒に出逢いたいなら、東京都北区桐ケ丘へ。

昼間からハシゴ酒を楽しめる赤羽から徒歩20分。都内屈指のマンモス団地に囲まれた桐ヶ丘中央商店街の一角にある三益酒店は、この地で70年以上続く地酒専門店です。日本酒や焼酎、ワイン、リキュールなどおよそ500種を扱います。

父から受け継いだ地酒愛

「先代の父は、全国の酒蔵に直接出向き、一軒一軒開拓していきました。お金と時間をかけて地方まで訪ねても、名刺交換すらさせてもらえないこともありました。こうやって棚にお酒が並んでいるのって、当たり前じゃないんだなと思いますね」

そう話すのは、3代目店主の東海林美保さん(34歳)。

一般に酒蔵は価格競争を懸念し、取引先を絞る傾向にあります。いくつもの希少な銘柄の特約店になっている同店は、遠くからも地酒好きの人々が集まってきます。

「私も造り手の考えや人柄に触れているので、必ずすべてのお酒のストーリーを語れるようにしています」

店内に入って驚くのが、ほぼすべての商品に手書きのPOPでの説明が添えられていること。キャッチーなフレーズや味のあるイラストにそそられて、ついつい酒瓶に手が伸びます。

三姉妹が醸すもてなしの心

重たい瓶を運ぶ酒販店業界は肉体的負担が大きいイメージですが、同店のスタッフはなんと全員女性。美保さんとふたりの妹を中心に日々奮闘しています。

主に仕入れと経理を担当するのは次女の由美さん(32歳)。味のバランスを考えながら銘柄を吟味し、在庫管理も引き受けます。三姉妹の中で最も早く家業に入り、接客から配達、裏方までマルチに活躍する影の立役者です。

三女の美香さん(24歳)は、同店に併設された角打ち「三益の隣」を切り盛りします。はじめてのお客さまであっても常連客のように温かく迎えてくれ、地酒の知識がなくても居心地の良い空間。調理師免許を持つ料理の腕前もあり、日に日にファンを増やしています。

飲めて買えてつながる

三益酒店には二つの扉があって、右側が酒屋、左側が角打ち「三益の隣」に仕切られています。

角打ちとは、酒屋の一角で購入したお酒を飲むことですが、最近は一杯からオーダーできる立ち飲み居酒屋のような角打ちも増えてきており、「三益の隣」では地方から取り寄せたおつまみや美香さんが作る料理なども提供しています。

瓶単位で販売する酒屋に対して、角打ちは手軽に一杯。お酒の美味しさを五感で楽しんでもらえます。気に入ったものがあれば購入して帰ることができるのも嬉しいところ。

地酒4種とつまみのセット(1000円・税込)はお得に飲み比べができるいちおしメニューです。ラインナップは毎週入れ替わり、単品の高級酒、ワインのほか、甘酒などのノンアルコールも充実。常連客のリクエストではじめた「〆のコーヒー」(300円・税込)など一風変わったメニューも登場します。

「うちに来られるお客さまはこだわりがあって地酒が好きなんです。でも、うんちくを語り合える相手は私たち店員くらい。そこでお客さま同士をつなげる場を作りたかったんです」

さらに月に数回、取引先の酒蔵を招いたイベントを開催。造り手と話せるレアな機会を用意して、地酒好きを喜ばせています。

苦労を乗り越え見つけた居場所

美保さんは大学卒業後、一度は一般企業に就職したものの、母が一時体調を崩したことをきっかけに看板娘として働き始めました。

幼い頃からお酒のラベルを眺めるのが好きで、三益酒店が好きだったという美保さん。しかし、いざ仕事を任されると、父が次々と仕入れるお酒を売り切ることができなかったり、お客さまから「そんなにお酒を飲んでいないのに何がわかる」と言われたり。ここに自分の居場所はないと悩む日々が続いたそうです。

転機となったのは2010年。カフェを間借りして金曜限定で開いた「三益バー」でした。美保さんセレクトのお酒と、由美さん手作りのつまみを用意した「三益の隣」の前身ともいえるお店です。

「母からママチャリを借りて、前かごに3升、後ろに3升載せて。妹の由美はリュックに料理とかを詰めて。自分たちが運べる範囲で『今日はこのお酒がいいね』って」

酒屋の営業に加えて、不慣れな飲食店の経営。大変な思いをしながらも、ブログで情報発信をこまめにするなど、自分たち流に毎日を積み重ねていきました。すると次第に姉妹の頑張る姿が魅力となり、お店は大盛況。半年という短い営業期間でしたが、たくさんのファンができました。

「『自分の居場所は自分で作れ』という父の言葉をバネに、自分たちのカラーを探し、居場所を作っていったんです」

三姉妹で作る三益ブランド

三益バーでの経験が自信につながり、美保さんはお店のイメージアップに着手します。店舗を改装し、ロゴマークを考案。包装紙やユニフォームを作り、オリジナルの平盃は500円(税込)で販売しています。

「この平盃を持ってきてくださった方には、1杯サービスをしているんです。お客さまがうちの平盃をバックから出して、美味しそうに飲んでくださる姿を見ると嬉しくなります」

“入口”を整えたことで若者や女性客が増え、贈答用の高級酒が売れるようになりました。「三益の隣」では週末限定ランチを開始し、ファミリーも楽しめる店に。店先にいるオウムのたろうちゃんは近隣の子供たちのアイドルです。

両親が忙しく地域に育てられたという三姉妹は、その恩返しの意味も込めて毎月2回、子ども食堂「きりっこ食堂」を開いています。

「大人だけじゃなくて子供たちとつながることがやっぱり大事なのかなって。自分の店だけ良くなればいいんじゃなくて、地域の人たちと一緒に協力すれば思い出も二乗三乗ですよね」

個性的な酒屋として全国的に知名度をあげている同店ですが、美保さんは「もっと若者に地酒を飲んでもらいたい」と話します。創業者の祖父母、そして両親から託されたバトンを磨き、「姉妹が頑張る小さな酒屋」から「日本一入りやすい酒屋」へ。三人四脚で歩んでいきます。

三益酒店
東京都北区桐ケ丘1-9-1-7 map
03-3907-0727
10:00~20:00
月曜定休
http://www.mimasu-ya.com/

角打ち 三益の隣
水曜・木曜 16:30~20:00 / 金曜11:30~20:00 / 土曜・日曜11:30~18:00
月曜・火曜定休
https://www.instagram.com/mimasunotonari/