アウトドアから学ぶ 自然と調和した ヒトの営み

アウトドアから学ぶ 自然と調和した ヒトの営み

「我々が扱っているのはマニアックな商品です。いつでもどこでも使うわけじゃないけど、特定のシーンでは絶大な威力を発揮する、そんな商品を届ける。それが私たちの強みであり、社会から期待されていることでもあると思っています」

株式会社スター商事の代表取締役社長・佐々木幸成さん(54歳)はそう語る。

スター商事は、アウトドア用品の輸出入及び製造を行う会社として1977年に設立。
日本未上陸だった海外メーカーと多数契約を交わし、日本のアウトドアブームを牽引する存在として注目されてきた。

「日本で需要を掘り起こす、それが我々の一つの役割だと思っていますから」

皆が驚くような最新アイテムを買い入れ、様々なアウトドアスポーツの門戸を開いてきたスター商事。
その軌跡には、アウトドア用品がもつ多様な可能性を引き出そうとする佐々木さんの深い志が秘められていた。

マイボトルからエコブームの火付け役に

スイス製アルミボトル・SIGG(シグ)は、スター商事が創業以来40年間、日本の総代理店を務めるロングセラー商品だ。
1枚の高純度アルミプレートを600tの圧力で継ぎ目のない均等な薄さに加工し、丈夫さと軽さを実現。余計な飾り気のないシンプルな見た目で、アウトドアシーンに限らず携帯用マイボトルとして世界中で人気を博している。

今では一般に定着しつつある“マイボトル”だが、実はこれ、2002年に日本で初めて佐々木さんが提案したものなのだ。

「当時、若者の間ではペットボトルを持ち歩くのがファッションの一つみたいに定着していて、マイボトルを持ち歩くなんて習慣はなかったんですよ。だから、もっと環境に調和した生き方をしてみましょうといって、新しいライフスタイルを世の中に提案したんです」

マイボトルは見事にブームとなり、SIGGの売れ行きは右肩上がりに。物を消費するだけでなく、大切に使い続けていこうとする“エコ”な取り組みを誰でも気軽に始められるようになった。

「実は当時、ビジネスとしてはあまりうまくいっていなかったんですよ。それで考えて考えて、がむしゃらになっていたところ、マイボトルというアイディアが浮かんできたんです」

その後もボトルデザインコンペを日本独自開催するなど、新たな切り口で着々と商品を広めていった。そしてマイボトルは一過性のブームに終わらず、ひとつのアイテムとして社会に根付き、現在でもSIGGと有名ブランドや企業とのコラボ作品ボトルが誕生し続けている。

災害時にも活躍するプロ御用達のアイテム

時に大胆に、次々とアイディアを実行していく佐々木さん。その原点は、圧倒的スケールの自然体験にあった。

1980年に高校を卒業後、シアトルの大学へ単身留学。アラスカの総領事館に5年間勤め、さらにその後はオートバイでアメリカ横断の旅に出た。
長いアメリカ生活を経て、縁あってスター商事に入社した佐々木さんだが、アウトドア愛好家の聖地・アラスカでの暮らしは特に印象深かったと語る。

「大自然にある秘境みたいな所でしたよ。オーロラを間近で観たり、サーモンフィッシングやトナカイの狩猟など、日本人は誰も来たことがないんじゃないかと思うような場所が遊ぶフィールドでした。あとは、1989年の冬、不慮の遭難事故で亡くなった世界的登山家・山田昇さんの遺骨を日本にお帰しする仕事は、強く胸に刻まれていますね。住むのには厳しい環境でしたが、あの時の経験が今の仕事に活きています」

そんなバックグラウンドをもつ佐々木さんは、販路開拓の新たな一手として“防災”に目をつけ、防災や減災などに関わる商品を扱う企業が一堂に会する『危機管理産業展』に出展。
アウトドア用品が被災現場でも役立つことを積極的に提案した。

「たとえば大きな自然災害があったとして、日本は世界的に見ると支援の行き届くスピードが早いほうでしょう。それに比べると、海外では自力でなんとかしなければいけない期間が長いこともあるんです」

初めて出展した時、同業者の参加はそれほど多くなかったと佐々木さんは振り返る。しかし、本格的なアウトドアグッズに対する来場者の関心は高く、官公庁や地方自治体との取引がスタート。現在では防災用品を扱う企業としても、その実績が認められるまでになった。

海水を飲み水に変える浄水器やジェット交換なしに異種類の石油系燃料を使用できるストーブは、安全基準に厳しい自衛隊に制式採用されている。

ブルーのヒートシートで心も体も温かく

アメリカのサバイバルブランド・SOL(エスオーエル)のヒートシート®は、体熱の90%を保持するため暖かく低体温症の予防にもなる。雪山などで遭難したときにも遠くから目立つよう、ビビッドなオレンジ色に設計されており、プロの登山家にも支持されている。
従来市場に出まわっていた生地の薄いエマージェンシーシートは、動くたびにガサガサと音がするのが難点だった。それに対してSOLのヒートシートは、ポリエチレンを特殊加工した軽くしなやかな生地で、身に纏ったまま動いても衣擦れの音が気にならない優れものだ。

東日本大震災が起きてすぐに、佐々木さんはSOLのヒートシートを被災現場に送った。音の響かないヒートシートは避難所生活で重宝され、後に感謝の手紙が多く寄せられたと、佐々木さんは懐かしそうに当時を振り返る。

「たたみやすくて使い回しがきくから、避難所みたいにスペースが限られたところでも使いやすいはずです」

ニュースなどで避難所の生活風景が映されたときに、大勢の被災者がシートを使っているのを見て、長期間にわたる避難生活では、目立つ色のシートはかえって不便なのではないかと考えた佐々木さん。
そして、同じ場所で一度にたくさんの人が使ってもなるべくストレスにならないようにと、心を落ち着かせる効果のあるブルーを新色に考案した。

避難所生活を余儀なくされる災害時には、明日の生活が保証されない心細さや家族・知人の身を案じる緊張感などで、想像以上に被災者の心身は消耗されていく。
そんなときに感じられる細やかな気遣いは、どれほど心強く温かいことだろう。
ブルーのヒートシートには、代理店の役割を全うするだけでなくユーザーの心に寄り添った商品を自ら開発しようとするスター商事の心意気が詰まっている。

アウトドアをもっと身近に

「防災=アウトドアみたいなところもあると思うんです。たとえば高い山に登ったり、自分で火を焚いたことのある人とそうでない人とでは、災害時の対応力が全然違います」

アウトドアを通して得られるものの価値を、佐々木さんは確信している。

「日本のようにいつ自然災害が起きてもおかしくないような国で生活する以上、人々がより安心して暮らすためには、アウトドア自体をもっと生活に密着させることが大切だと考えています。キャンプとか山歩きとか、いろんな経験をしていただきたい。アウトドアは楽しいんですよ。これを着実に啓蒙していくことが使命だと思っていますし、それによって社会貢献ができると思っています」

自然の中で起きるさまざまな非日常体験は学びの宝庫であり、特に小さな子どもたちにとっては、防災の素養を育む絶好の場であると佐々木さんは語る。

「初めてランタンストーブに火をつけたときのあのワクワクする気持ちを、多くの子どもたちにも知ってほしい」

防災といっても難しく構える必要はない。
自然に身を置き、恵みを全身で受け止め、時には思い通りにならない厳しい状況にどう立ち向かっていくのか、まずは自分を試すことから始めてみてほしい。
考えるよりも、まずは行動してみるところから。

スター商事が世界各地から選りすぐる本場仕込みの商品たちが、自然へと踏み出す新たな一歩をサポートしてくれることだろう。

株式会社スター商事
東京都荒川区東日暮里4-5-16
http://www.star-corp.co.jp/