xRの夜明け テクノロジーが拡張するビジネスの近未来

xRの夜明け テクノロジーが拡張するビジネスの近未来

2020年は、現実世界とバーチャルの境目がなくなる「xR(エックスアール)元年」として記憶されるかもしれない。

xRとは、バーチャル世界に没入するVR(仮想現実)、現実世界にバーチャル情報を重ねるAR(拡張現実)、その2つを合わせたMR(複合現実)の総称。それらの技術は、ゲームやエンターテインメント分野で飛躍的な盛り上がりを見せているが、ビジネスの現場でも熱視線を集めている。

ビジネス分野でもここまできている

その先導役といえるのが、マイクロソフト社が開発したMRデバイス『HoloLens(ホロレンズ)』だ。ゴーグルの形をしていて、装着すると3D映像が目の前の現実空間に投影される。シームレスな映像とケーブルレスで自由に動き回れるのが特長だ。

大手総合建設会社・竹中工務店は2019年5月、建築物の施工をアシストするアプリを発表した。現場作業員がHoloLensを着用すると、形状の異なる1200枚ものパネルをどこにはめるか教えてくれるので、作業ミス防止や工数の短縮につながったという。

「職人さんの経験や勘に頼っていた部分を、職人さんが嫌がらない方法でマニュアル化したいという思いがありました。ハンズフリーというのがすごく大きいみたいで、喜んで使ってくれたと聞いています」

そう話すのは、このアプリ開発を手がけた株式会社ハニカムラボの代表取締役CEOの河原田清和さん(45歳)。同社は、PlayStationやXboxなどのゲームソフトを開発してきた河原田さんを筆頭に、エンジニアたちが得意ジャンル・コアスキルを持ち寄って設立したテクノロジー企業だ。

2017年からは、日本マイクロソフト社の『Microsoft Mixed Reality パートナー プログラム』の第1期認定パートナー6社のうちの1社として、さまざまなHoloLensアプリを先行開発してきた。現在は、2019年12月に出荷を開始した最新モデル『HoloLens 2』向けのものを含めて、研究や開発を加速させている。また、企画のサポートや技術面のコンサルティングなど、包括的な対応を提供している。

空間に浮かぶキャラがナビゲート

コントローラーなしのハンズフリーで操作できるのもHoloLens/HoloLens 2の強み。同社が開発した『バーチャルガイド』は、使用者の顔の向きや指のジェスチャーに反応して、キャラクターが施設を案内するアプリだ。

「こんにちは。私の名前はハニカ。今日はよろしくね!」とかわいらしい3Dキャラが登場する。「どこへ行きたい?」という問いとともに、空間に表示される案内ポイント候補から一つを選ぶと、「この階段をあがると会議室だよ」と先導してくれる。

これはHoloLensの空間スキャン機能で施設全体の3Dイメージを取り込み、任意の場所を案内ポイントに設定することで、キャラクターがセリフやアクションを行うという仕組み。

案内ポイントはいつでも追加できるので、展示物の入れ替えがある美術館などに有効だ。人の動きのログ情報を取得すれば、動線を解析するなどマーケティングにも利用できる。

デバイスはHoloLensに限らず、アプリをインストールすればスマホやタブレットがMR機器に即変身。カメラで捉えた景色の中にキャラクターが登場し、同様のナビゲートが受けられる。1台約3500ドルするHoloLensや最新のHoloLens 2と比べてずっと導入しやすい。使用シーンに応じてデバイスを使い分けるのもいいだろう。

xRとAIの融合

同社ではさらに、こうしたキャラクターにAI(人工知能)を組み合わせたソリューションを提供している。それが『aicontainer(アイコンテナ)』だ。

aicontainerは、さまざまなキャラクターとその人格を作成するAIソリューションで、キャラクターが受付係となって来客対応などを行うことができる。

バーチャルガイドは設定されたストーリーに沿って案内を行うが、そこにAIをプログラムすることで、キャラクターが会話ベースの受け答えができるようになる。問いかけられた内容は蓄積されていき、その傾向を分析できる。カメラやセンサーを搭載すれば、さらに多様なデータを取得・解析することが可能だ。

ブームに乗じてマスコットキャラクターを作ってみたものの、活用方法に考えあぐねている企業や自治体は少なくない。河原田さんは、バーチャルガイドやaicontainerで新たな息吹をもたせられると期待する。

「ゲーム開発の経験から、ユーザーにあまり考えさせない“使いやすさ”を重視しています。技術臭さは見せないようにしたいですね」

声優の声をもとにした合成音声によって、感情豊かでスムーズな対話ができるようになるなど、技術は日々進歩している。生身の人間を3Dスキャンして登場させることもできるというから驚きだ。

扉はもう開かれている

xRにはハードウェアがまだまだ高価という導入障壁があるが、それよりも大きいのは、ユーザーの奥ゆかしさであると河原田さんは分析する。スマホのAIアシスタントでいえば、「ヘイ」「オーケー」といったウェイクワードで呼びかけると起動するが、なじめない日本人は少なくない。

「たとえば会社の受付にキャラクターがいても話しかけてくれないことってあると思うんですね。でもそれって持っていき方で後押しできると思うんです。ディスプレイスペースを話しかけやすい空間にするとか。そういった企画的なサポートも考えていきたいですね」

デジタル技術とインターネットはあっという間に常識を塗り替え、そのスピードは加速するばかり。ハニカムラボも以前はスマホアプリの開発がメインだったのが、今やxRを中心とした“体験づくり”に絡む仕事が約半分を占める。

直近では、ファッションブランドWEGO(ウィゴー)のSHIBUYA109店とバーチャル空間をつなげる世界初のVR展示即売会『バーチャルマーケット』に技術協力したことが大きな話題となった。

「いろいろな仕事にARやVRが組み合わされるようになってきましたね。ちょっと前のウェブみたいな感じで、だんだんと僕たちの中に入り込んできている。これはもう1年2年しないうちに、世の中的にも普通なことになってくるんじゃないかと思っています」

xRを活用できる場はどんな業種・業態にも存在していて、新たなソリューションの鍵となる可能性を秘めている。この記事を読んでHoloLens/HoloLens 2やバーチャルガイド、aicontainerが気になった人は同社ホームページから連絡を。体験や相談の場を設けてくれるそうだ。

「これまで縁遠かった人たちには、『xRの技術でこんなことができるんだよ』っていうのを伝えたいですね。便利で楽しくて、みんなびっくりするんじゃないかな」

株式会社ハニカムラボ
東京都渋谷区代々木1-15-7 キャッスル代々木4F map
https://www.honeycomb-lab.co.jp/