未来のエースの夢つなぐ 痛くない野球グラブ「LOPI」とは

未来のエースの夢つなぐ 痛くない野球グラブ「LOPI」とは

投手が渾身の一球を投げ、打者はバットを振り切って打つ。強烈な勢いで飛ぶボールは野球グラブ(グローブ)の芯で捕らえられ、パーンと高い音が鳴る。観客が華麗なプレーに酔いしれるなか、キャッチした選手は内心「うっ」とつぶやいているかもしれない。

そんな声にならない声を拾い上げて開発されたのが、野球グラブブランド『LOPI(ロピ)』。内部に厚さ1~2ミリの “インパクトプロテクター”を内蔵することで、捕球時の衝撃を約半分に抑えることができるのだという。

きっかけは少年の声

インパクトプロテクターの正体は低反発弾性材料として用いられるウレタンで、手の平から指の第二関節付近までをカバーする。発泡体構造で通気性がよく、皮膚への刺激も少ないので長時間はめていても疲れにくい。

「小・中学生が軟式から硬式のボールに変わるとき、よく『痛い、痛い』って言っていたんですね。それならクッション材を中に入れてみようと」

そう語るのは株式会社ジョン・ブル・ハウスの代表取締役・藤田大輔さん(46歳)。東京・浅草で婦人靴やバッグの皮革素材の卸売業を営むかたわら、2017年頃からLOPIの開発に着手し、約1年3ヶ月をかけて商品化した。

藤田さん自身、高校時代は甲子園を目指し、社会人になって結成した野球チームでは国体県大会2連覇を達成。現在は中学生の硬式野球チームのオーナーを務め、2019年の日本少年野球春季全国大会では創設5年でベスト4入りを果たした。まさに筋金入りの野球好きだ。

「血行障害で捕球時の痛みに悩まされていた子がこのグラブをつかったところ、すごくよくなったと連絡をいただいて。作ってよかったと思いました」

インパクトプロテクターの耐衝撃性は、JIS(日本産業規格)の審査でも証明されている。さらに捕球したボールがグラブの中で暴れないこと、衝撃吸収後元の形状に即座に戻る復元性に優れることが分かった。そのため捕球後にボールを握りかえやすく、スムーズに送球に移ることができる。2018年10月には実用新案の登録を済ませた。

少数精鋭の職人が製作

ラインナップはポジションや利き手、サイズ別で全10種類。価格は全て5万円(税抜)。カラーはバーミリオンオレンジだが、カラー変更や刺しゅう入れ、手形を取るところからのオーダーメイドにも対応している。

キメが細かく柔らかな牛革は、ベースボールの本場・北米から仕入れたステア。卸ならではの目利きで上質な革を選定しているだけでなく、傷のない部位をぜいたくに使う。

「革屋なので、良い革で作る。腰・お尻部分の真ん中の皮がやっぱり強いですね。1 枚から4~5個分のパーツを切り出すところ、うちは1個~2個にしています。なのに、価格はそんなに高くない」

製作するのは有名メーカーのOEMも手がける野球グラブ専門工房・東駒スポーツ用品株式会社。数名の職人で製造しているので大量生産はできないが、細かいリクエストに柔軟に応じられるのが強みで、プロ野球選手の使用実績も多数ある。

最初の工程は金型を使った裁断で、約30あるパーツを手際よく切り取っていく。漉(す)き機で革の厚みを調整する際は、インパクトプロテクターを入れても重くならないよう、シワがでないギリギリのラインまで軽量化する。

LOPIについては、数多のグラブを製作してきた職人も「手を入れた瞬間に柔らかい感じがします。革だけのグラブとは捕り心地が全然違いますね」と太鼓判を押す。

親指と人差し指の間にあるウェブ(網部分)は投手用なら握りが見えないように、野手用なら様々な打球に対応できるように、とポジションやプレースタイルによって編み方が大きく変わる。デザインを決める部分でもあるため、LOPIではメインターゲット層である中高校生の流行りを重視し、彼らの意見を積極的に取り入れている。

また、汗が染み込んだグラブの放つしょっぱい臭いに閉口した思い出を、野球経験者なら誰しも持っているはず。そこで、香料入りの専用固形オイルを開発し付属品とした。

「背面の汚れを落とすのにオイルを使ったり、捕球面を保湿させたり。手入れにも好みがあります。汚れ落としや腐食防止、ツヤ出しなど皆が欲するような機能があって、なおかつ香り付きってないんですよ」

いつかはメジャーリーガーの愛用品に

大手メーカーにはない“捕球時の痛み”に着目したグラブを開発して1 年。憧れの選手が使うプロモデルがマーケットで存在感を放つ中、LOPIの名前は野球愛好家の間に浸透しつつある。

「認知されているのは確かです。ただ、実力のある選手は学生時代から大手メーカーがくっついているので。そこが課題ですね」

そんななか、自チームから強豪高校に進学する選手を輩出していることもあり、2019年春夏の甲子園では出場選手数名がLOPIを使用してくれた。その全員が衝撃吸収性や使い心地を高く評価しているという。

また、YouTubeの人気野球チャンネル『トクサンTV』や『QooninTV』に取り上げられるなど、社会人の野球愛好家からも好意的なコメントが寄せられている。

この波に乗って、同社はネット通販に軸足を置きながらLOPIの良さをアピールしていく考えだ。

「ただやっぱり高価なものなので、手に取りたいっていう声も多い。ネットを中心にもっと認知されていって、スポーツ用品店から『うちのお店でも売りたい』と声がかかるのが一番理想ですね」

LOPIは、痛みを恐れて野球を諦めようとする少年たちを救う。彼らのなかから「いつかはメジャーリーガーに使ってほしい」という藤田さんの夢を叶える選手が生まれるかもしれない。

株式会社ジョン・ブル・ハウス
東京都台東区浅草6-46-2 サンクレスト浅草1F map
03-3871-0896
https://lopi.jp/