眠らせてたらもったいない!ソースの老舗がおいしさ届けにやってきた

眠らせてたらもったいない!ソースの老舗がおいしさ届けにやってきた

東京都北区滝野川七丁目は、水曜のランチタイムになるとソースの香ばしい匂いが漂う。住宅街にある工場の入り口には、平日にも関わらず人々が列をなしており、その先には巨大なソースボトルを載せたキッチンカーが見える。紅白のラッピングと相まって、とびきり個性的だ。

行列に並ぶ人たちのお目当ては、トキハソース株式会社が2019年6月から工場前で販売している「瀧野川やきそば」(500円税込)。コシのある中太麺に、キャベツと牛肉。車内に設置された鉄板を使いその場で具材を炒めていく。ローストビーフ、きんぴらごぼう、紅しょうがを添えたら完成。きんぴらごぼうは、滝野川がニンジンとゴボウの栽培が盛んだったことにちなんでいる。

一つ約300gで、男性でも満足できるボリューム感だ。自社商品の「焼きそばソース」(1.8L・900円税抜)がほどよい濃さで、食材を引き立てる。

東京最古参メーカーが守る伝統の製法

「ちょっと物足りないぐらいのほうがまた食べたくなるかなと思って、色の割にソースの味が濃くならないようにしました」と同社代表取締役の田口伊津子さんは言う。

大正12年創業の同社は、東京で最も古いソースメーカー。野菜の粉末や缶詰を原料に使うメーカーが主流になる中、同社では昔ながらの製法にこだわり、近くの青果市場から届く生野菜を使う。

ウスターソースをベースに全ての商品を作っているのも同社の特徴だ。中濃ソースなどはウスターの工程を経ずに製造することもできるが、同社はウスターの材料で配合を変えたり、別の素材を足したりして作っているから、どのソースにもコクが生まれる。

「たかがソース、されどソース。手間暇かけて作っています」

ローストビーフやきんぴらごぼうの味付けに使われる「特選ソース」(300mL・800円税抜/490mL・1300円税込)は、うま味とコクが詰まった澱(おり)を使っている。澱はウスターの原液を作るタンクの底に沈殿するもので、容量のわずか0.5パーセントしかとれない貴重な濃縮エキスだ。

食卓に欠かせない名脇役でありたい

それにしても、なぜソース会社がやきそばを売り始めたのか。その背景には、料理にソースをもっと活用してもらいたいという思いがある。

「うちの特選ソースには10種類の香辛料が入っています。例えば、カレーが物足りない場合、大さじ一杯のソースをたらすだけで味が締まります。何種類もスパイスをそろえる必要がないんです」

食材の味を補ったり、料理のコクを出したり、生臭さを消して香りを加えたりとその用途は幅広い。

瀧野川やきそばのきんぴらごぼうは、他の調味料を一切使わずソースだけで味付けをしている。またローストビーフは、オーブンがなくてもソースに漬け込むだけで作れるという。実はこのローストビーフは、田口さんの父で2代目社長・坂田実さんが毎年正月に作ってくれた思い出の味でもある。

「年に一回しか食べられないごちそうでした。それをなんとか再現したいというのもあって、瀧野川やきそばにもローストビーフを入れたんです」

危機感が生んだキッチンカー

使い勝手の良さにもかかわらず、田口さんによるとソースの売り上げは減少傾向にあるという。

「共働き世帯の増加に伴って、自宅で揚げ物をやらない家庭が増えています。“かける”だけの用途だと、ソース1本買っても賞味期限までに使い切れないのが現状ではないでしょうか」

ソースは在庫回転率が低い上に、スーパーに置かれている安価な大量生産品に同社が対抗するのは難しい。そのため高くても良い物を求める層が集まる百貨店などに同社商品の取扱いは限られる。

そこに危機感を持った社員の提案でキッチンカーは生まれた。実演販売を通じて、多様な使い道があることを消費者に知ってもらおうというわけだ。

販売開始前に “毎週水曜日は瀧野川やきそばの日”というチラシを近隣に配ったところ、ソース屋さんがつくるソースやきそばとして住民の間で口コミが広まり、初日は用意した200食がたった15分で完売した。

「売り切れが続いて、『4回目ぐらいでやっと買えた』というお客さまもいました。どれくらいが適正な数量なのか、今も試行錯誤しています」

自販機でソースをもっと身近に

対面販売のキッチンカーとは相対する手法でも需要を開拓している。それが本社工場横の直売所前に導入した自動販売機だ。

「お客さまから『休日に買いに来たい』という声をいただいていました。社内アンケートでアイディアを募集したところ、自動販売機案が出たんです」

ものは試しと2018年6月に設置したところ、予想を上回る売り上げを記録。休日や夜間だけでなく、直売所が営業している平日の日中に自販機を利用する人も少なくないそう。

「直売所で店員と会話しながら買いたい方もいれば、欲しい商品を自販機でサッと買いたい方もいるんですね」

ラインナップは上記の特選ソースに「生ソース」(ウスター・中濃・濃厚)、「焼きそばソース」、「とんかつソース」を加えた全6種類で、全商品を自販機で購入できる。

滝野川の名物に育てたい

田口さんはキッチンカーをいろいろな場所に出動させ、認知度をさらに高めたいと意欲を見せる。既に銀座や丸の内、池袋、上野、浅草を走行した。

「街中でこのキッチンカーを見た人がすぐ調べられるよう、ソースボトルの底にQRコードを付けてあります。トキハソースを知るきっかけになれば」

瀧野川やきそばをソース普及の呼び水とし、区内外のさまざまなイベントへ出店していきたいという。ご当地グルメとして滝野川の名を広めることにより、地域活性化にも繋げたいと話す。

直近のスケジュールには、9月28日(土)に開催される「北区花火会2019」がある。荒川河川敷・岩淵水門周辺に設けられる花火会フードコート内のキャッシュレスエリアで販売する予定だ。

2023年に創業100年を迎えるトキハソース。東京のソース文化の礎として良い商品を作り続けるのみならず、新たな挑戦へ奮闘し続ける同社の姿勢に、家庭用からレストランまで多方面から愛される理由が伺える。

「調味料なので主役にはなれないんですけど、これがないと引き立たないっていう名脇役でありたいですね」

トキハソース株式会社 本社工場・直売所
東京都北区滝野川7-39-8 map
03-3916-7181
9:00~16:30
土曜・日曜・祝日定休
https://tokiwa-sauce.co.jp/

瀧野川やきそば
毎週水曜11:30~13:00