地味にスゴイ!自動栽培システムSoBiCが世界を救う?!

地味にスゴイ!自動栽培システムSoBiCが世界を救う?!

電気を使わない自動野菜栽培装置

「どんなにいいソリューションでも、複雑ではダメなんですよ。シンプルな構造でハイテクを超越している、それが強みです」

ネイチャーダイン株式会社は、太陽光だけで作物が育つ自動栽培システム『SoBiC(ソビック)オーガニックプランター』を開発した。代表取締役社長である中島啓一さん(50歳)にお聞きしたところ、その使い方は驚くほど簡単。種を植えた専用野菜カプセルをプランターにセットし、日当たりのいい場所に置くだけでOKだ。

外側に取り付けられたエアチャンバー内の空気が日射熱によって熱膨張や収縮を起こし、循環装置を作動させる。そうすると、循環装置が自動水補充装置から水を吸い上げて野菜カプセルに給水し、使った分だけ補充水タンクからまた自動水補充装置へと水が流れ込む。

自然のリズムでシステムが働くため、週に一度水を補充するだけで毎日の水やりは必要ない。従来の栽培方法に比べて節水効果は9割以上に及び、電気代などの維持費もかからない。

その夢のような仕組みはまるで、酸素を取り込む“肺”と血液を巡らせる“心臓”。究極の効率化を目指した結果、人体のメカニズムと同じ形態にたどり着いたのだという。世界初のシステムとあって、もちろん特許は取得済みだ。

さらに、野菜カプセルの土には微生物の繁殖を促す肥料成分をブレンドし、自然に近い生態系を再現している。面倒な土づくりや追肥をしなくても、放っておくだけで作物が圧倒的なスピードで育っていくというのだ。

「SoBiCは、お金も技術も労力もなしに人を豊かにするんです。そういった意味では、今まで発明されてきた仕組みの中で最高だと思っています」

気になる価格は、プランター本体と野菜カプセル1点がセットで8941円(税込)。AmazonYahoo!ショッピングなど、インターネットから購入できる。

有機野菜を自分の手で

国内だけで2000億円を超え、今後も伸びが期待されるガーデニング市場は、土いじりを愛好する大勢の男性に支えられている。SoBiCもまた、メカニカルなシステムに惹かれた男性ファンが7割以上を占めているという。

しかし、家庭の中で消費の鍵を握るのは、やはり女性であることが多いだろうと中島さんは分析する。

「欧米に比べると、日本の有機農業はまだまだ遅れています。スーパーで買うとなると、トマト一つで400円ほどしますよね。ところが、SoBiCなら30円ほどのコストで手に入ります。完全無農薬の自然野菜を自分で作ることができる喜びを、ぜひ女性にも味わってみてほしいですね」

専用野菜カプセルに付属する種は、全部で24種類。そのうちの17種類はヨーロッパの厳しい有機種子基準をクリアしたものだ。家庭菜園の初心者には、発芽から収穫までの期間が短いキュウリや、手間をかけずにたくさんの実を収穫できるトマトが特におすすめだという。

また、万が一うまく育たなかった場合も、日照時間など同社が定める栽培条件を満たしていれば、無償で新しい野菜カプセルを受け取ることができる。このような生育保証は業界初の試みな上、会員専用サイト『SoBiC CLUB』(登録・利用無料)で栽培記録を残しておけば、より適切なサポートを受けることができるので安心だ。

これまで誰も思い至ることのなかった栽培システムを生み出した中島さんだが、実は農業経験は全くなく、むしろ対極の位置にある業界に身を置いてきた人物だった。

畑ちがいの意外な経歴

大学を卒業後、貿易商社に勤務していた中島さんは、1990年代半ばのインターネット黎明期に一転してITベンチャーを起業。携帯電話を使った電子決済システムなどを発明し、業界で大きな注目を集める。その後、通信大手のソフトバンクから声がかかり、POSレジシステムや遠隔医療、ウェアラブルコンピュータGoogle Glassなど、さまざまな分野のビジネス開発を手がけることに。一時は300名もの部下を抱え、社内でも指折りの辣腕家として活躍していたという。

約30年にわたるキャリアの中で、今日のICTを形づくる基幹技術を世に送り出してきた中島さん。しかしその一方で、世の中にITが浸透していくほどに、徐々に自身の仕事を見つめ直すようになったのだという。

「ITとかAIは、便利さと引き換えに人間の創造力を奪っていることに気づいたんです。それでいろいろと考えを巡らせた結果、農業しかないと思いました」

こうして中島さんは、それまでの経験で培ってきた知識やアイディアを自動栽培システムの実用化に注ぎ込み、広めていくことを決意する。

最小限の資源で世界を豊かに

「いずれはこのシステムロジックをオープンソース化して、他の企業にも活用してもらえるような形にしていきたいと思っています。インターネットが爆発的な普及をとげたように、そういうプラットフォーム型のビジネスモデルを目指していきたいですね」

2017年7月、同社はSoBiCを専門機関に無償でレンタル提供するサービスをリリースした。ゆくゆくは研究者と協働し、SoBiCの実力を裏づける科学的な根拠を示しながら、商品への信頼を高めていきたいという狙いがある。

また、現在開発中なのが、法人向けの大型システム『SoBiC PRO(ソビックプロ)』。循環システムは通常版と同様だが、下水道などにも使われている塩ビパイプを素材に採用しているのが特徴だ。これにより耐久性が高くなり、さらに、世界で常用されている建材であるため、どこの国でも生産が可能になるのだ。

節水効果の高いSoBiCを企業や組織で活用してもらい、水不足が原因で進行する世界的な食料難も食い止めたいと中島さんは語る。

「発展途上国には水汲みの労働をしている女性や子供たちがいますよね。重い容器を頭に乗せて、彼らは長い距離を一日に何往復もしています。SoBiCは、そんな人たちの力にもなれると思うんです」

最小限の資源でたくさんの作物を栽培することのできるこのシステムが普及すれば、就学や労働、女性の社会進出など、人々の生活水準に関わる問題も同時に解決することができるかもしれない。これまでにない新しい形で豊かさを広げるソリューションを日本から発信していくのがSoBiCなのだ。

新時代を支える鍵となる

放っておくだけで作物が育つという強みを生かし、同社は新たに福祉施設との提携を開始した。SoBiCを使い、高齢者や障害を持つ人々が自らの手で有機野菜を生産販売できるよう取り組みを進めている。

「あと30年後には生産人口が減少して、社会的弱者といわれる人々が人口の6割を占めるようになるといわれています。知識や体力がなくてもいいものを作ることができるSoBiCなら、立派な労働力として社会に参画することができるんです」

一見しただけではその有能性が見抜けないほど素朴な見た目のSoBiCだが、中身をひもといてみると、社会に果たす役割の大きさが垣間見える。

誇らしげな中島さんの背中に続いてビルの屋上に出ると、さんさんと照る太陽の下に農園が広がっていた。トウモロコシ、スイカ、カボチャ、トマト、ナス、キュウリ…、たくさんの種類の野菜が元気に育っている。まるまるとした真っ赤なトマトを、いくつか収穫していただいた。

完全な無農薬野菜は指にキュッとつかえるような感触がなく、さらさらとした手触りが心地いい。さっと水洗いしてかじりつくと、弾力のある皮がはじけて甘酸っぱい味が口中に広がった。

農業のプロに頼るばかりの時代から、誰でもどこでも農業ができる時代へ。コンクリートジャングルの空に緑が映える日も、そう遠くはないのかもしれない。

ネイチャーダイン株式会社
東京都文京区関口1-38-2 エクセル早稲田1F
http://www.naturedyne.com