泊まる場所から集う場所へ 世界を魅了するBackpackers’Japan

泊まる場所から集う場所へ 世界を魅了するBackpackers’Japan

「外国人や近所の人たちが入り混じっている光景を見ると、僕たちが作りたかったのはこれだよねって思います」

株式会社Backpackers’Japan(バックパッカーズジャパン)の代表取締役/CEO・本間貴裕さん(31歳)は語る。

2010年2月、バックパッカーズジャパンは本間さんを中心とした20代の若者4人によって設立。既存の物件をリノベーションしたゲストハウス/ホステルの先駆け的存在で、今では東京で3軒、京都で1軒を経営する企業にまで成長した。

日本政府観光局(JNTO)の調査によると、2016年の訪日外国人旅行者は2000万人を超え、過去最高を記録した。今後も増加が見込まれており、宿泊施設の需要拡大からホステルなどの簡易宿所や民泊に注目が集まっている。

同社が経営するゲストハウス/ホステルの注目すべき点は、宿泊施設だけでなくカフェやレストラン、バー、ラウンジといったコミュニティスペースが充実しているということ。宿泊者以外にも、飲食や音楽を目的にしたビジターも多く、素泊まりを基本とした従来のホステルにはないゲスト同士の交流を盛り上げている。

また、宿泊者の8割が外国人旅行者であるのも大きな特徴だ。しかも訪日外国人の大半をアジアからの旅行者が占めているなか、こちらはアジアだけに偏らず、フランスやアメリカ、オーストラリアなど欧米諸国からも人気が高い。

古民家がくれたインパクト

会社設立と同じ年、バックパッカーズジャパンは東京・入谷に築90年の古民家をリノベーションしたゲストハウスtoco.(トコ)をオープンさせた。

下町の住宅街の一角にある小さな入口からリビング&バーを抜けると、大きな縁側が昔懐かしい木造の客室棟と静謐な日本庭園が目の前に広がる。外観からは想像がつかないほどの別世界に、ゲストは感嘆の声を漏らす。庭園にある大きな溶岩の山は『下谷坂本富士』という江戸時代から残る富士塚で、国の重要有形民俗文化財に指定されているものだ。

東京の原風景を思わせる景色に本間さんは一目惚れし、この場所での開業を即決したそうだ。

そしてここから『あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を。』という企業理念が生まれ、彼らがこの先を歩んでいく道しるべとなっていく。

武器は宿と酒、そして音楽

二号店のNui.(ヌイ)HOSTEL & BAR LOUNGは、東京・蔵前にある老舗玩具会社の6階建て倉庫ビルをまるごとリノベーションしたホステル。

天井高4.5mの開放的な1階のラウンジスペースは、カフェ&バーを兼ねており8時から25時まで営業している。武骨なコンクリート空間に温もりを感じさせる木や革を使ったインテリアは、本間さん自らが北海道ニセコ町で選んだ大木から作られたもの。工業と手しごとが同居する雰囲気が魅力的だ。

木造の古民家から打って変わって鉄筋コンクリート造のビルを選んだのは、さらにコミュニケーションを促進させるツールとして“音楽”を取り入れるためだという。

「おいしいお酒とつまみがあって音楽があったら言葉が通じなくても友達になれますよね」

夜になると雰囲気は一変。照明が下がり、BGMの音量が上がる。ラウンジには様々な言語が飛び交い、1リットルジョッキを片手に外国人がトランプに興じる姿。まるで海外にいるかのような錯覚を起こし、自然と気分が高揚する。

楽しさとワクワクを求めて世界中から人が集まり、東京の下町には異質とも思える独特の空間が出来上がるのだ。

また、月に2回開催されているイベントではジャズやアイリッシュ、アコースティックなど迫力のライブステージが楽しめる。

オフィス街の地下に流れる自由な空気

2017年3月には、東京・日本橋大伝馬町に7階建てホステルCITAN(シタン)を新たにオープン。1階がコーヒースタンド、地下にバーラウンジ、2階から上は38室130ベッドを備える宿泊フロアになっている。朝昼晩とちらほら見かけるオフィスワーカーの姿に、老舗からベンチャー企業が集まる日本橋のビジネス拠点としての街の一面が感じられる。

CITANでは、今までよりもさらに音楽を楽しめる空間づくりに挑んでいる。

ラウンジを地下に設け、その壁にわずかな角度をつけて反射音を軽減させたり、12台のスピーカーでフロアを囲むなど、細かな音響設計からも気合いが伺える。音楽に会話がかき消されてしまう心配もなく、どこにいても会話と音楽を楽しむことができるのだ。

さらに、渋谷のクラブTHE ROOMと提携し、毎週金曜日と土曜日の19時から23時はジャズやファンク、ソウルなど幅広いジャンルのDJをブッキングしている。エントランスチャージは無料なので普段使いにも嬉しい。クラブやライブハウスとはまた違った空間で、上質なプロのパフォーマンスを体感することができるのだ。

「僕たちの業種は宿泊業だけど、ラウンジに多種多様な背景や価値観を持った人を集めるために宿があるんです。宿があるから外国から人が来てくれて、カフェやバーがあるから地元の人が来てくれる。そして、みんなを音楽とお酒で混ぜるんです。極端に言うとラウンジ屋なんですよね」

本間さんが目指す空間づくりの中で不可欠な要素が、風通しの良さだ。

CITANの物件はもともと窓が小さく、地下フロアは天井が低くてやや息苦しい印象だったという。そこで小さかった窓を大きくし、1階の一部の床を抜く大規模な改装工事によって、光がさし込む吹き抜けのラウンジを完成させた。

また、風通しの良さはハード面に限ったことではない。

地下のバーダイニングでは、どんな人でも同じテーブルが囲めるように、食習慣に配慮したベジタリアン/ビーガンメニューを用意している。なかでも中東諸国で親しまれている、ひよこ豆のコロッケと野菜のファラフェルサンドイッチは、ヘルシーなのに満足感もあって本間さんもおすすめの一品だ。

そして何よりも、同社の『一緒にご飯を食べたいと思える人』という採用コンセプトに合ったオープンマインドなスタッフたちが作る空気感が、居心地の良い空間づくりを実現させているのだ。

伝えていきたいオリジナルストーリー

新規出店のたびに話題となる同社だが、実は大きな広告を出したり、無作為にメディア露出することは意図的にしていない。不特定多数に消費されるのではなく、自分たちの考えに共鳴してくれる人が少しずつ増えてほしいという思いがあるからだ。

そういった考えをもとに他方で、自社が制作するコンテンツは、見る人に直接想いを届ける媒体として力を入れている。

たとえば各店舗のホームページでは、施設や街の雰囲気などそれぞれの様子を伝える動画を公開。約2分間の映像の中にほとんど言葉や文字はなく、映像と音楽のみで感覚的に伝える工夫をしている。

また、会社のホームページでは『私たちが考えること』と題してブログ記事を積極的に公開している。創立メンバーの出会いまでさかのぼり、小説のように綴った『STORY FOR 5 YEARS』やスタッフの旅の様子など、その瞬間の感情や情景が目に浮かぶように伝わってくる。

「あいつらのやってることって面白いしなんかいいよねって思ってくれる。そういう人が増えていくように、内容が濃いものを発信していきたいんです」

集客という方法ではなく、自然と多様な人々が集う空間をこれからも作っていきたいと本間さんは話す。

世界を変えるきっかけの場所

最後に、着々と規模を拡げ成功させていく秘訣と今後の展望について尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「目指す事業規模や店舗数っていうのはないんです。国内外問わず、僕らが心から気持ちいいと思える土地に展開していきたい。そこに、国籍や肩書を取っ払って文化的に人がつながれるようなフィールドを作ることで、もしかしたら世界をいい方向へ進ませることができるかもしれない。それが僕たちの存在意義というか、根本欲求なんだと思います」

顔を合わせながら五感を共有し、個人と個人が関係を構築できる場所。コミュニケーションが希薄になりつつある現代だからこそ、そんな場所が求められているのかもしれない。

株式会社Backpackers’Japan(バックパッカーズジャパン)
http://backpackersjapan.co.jp/blog/about

ゲストハウスtoco.(トコ)
東京都台東区下谷2-13-21
03-6458-1686
https://backpackersjapan.co.jp/toco/

Nui.(ヌイ)HOSTEL&BAR LOUNGE
東京都台東区蔵前2-14-13
03-6240-9854
https://backpackersjapan.co.jp/nuihostel/

CITAN(シタン)
東京都中央区日本橋大伝馬町15-2
03-6661-7559
https://backpackersjapan.co.jp/citan/