幸せのホットスティックチョコレート 孤高の作曲家がたどりついた新たな道

幸せのホットスティックチョコレート 孤高の作曲家がたどりついた新たな道

「僕らのような若い世代が街を引き継ぐときがいつか来る。そのときに、うちの店が筆頭になって外から人が押し寄せてくるような新しい要素になれたら、それって面白いなって思うんです」

Bonnel café(ボンヌカフェ)の代表、丹羽洋平さん(27歳)はそう語る。

東京都北区・十条銀座商店街の一角にあるボンヌカフェは、あたたかいドリンクにくるくると溶かしながら食べるホットスティックチョコレートが話題の店。

スティックをまわした先からとろけていくチョコレート。ぱくりと口に含むと、濃厚な生チョコの香りが鼻を抜けていく。ミルクに紅茶、シナモン、ほうじ茶など、数ある中からお気に入りのフレーバーを探すのも楽しい。
愛くるしいまんまるなフォルムは、同店のロゴにもなっている。

二階建ての店内は木のぬくもりが感じられる落ち着いた雰囲気で、ゆっくりとチョコレートを堪能することができる。食べ歩きやおみやげ用にテイクアウトできるのも嬉しい。
今やチョコレート好きにはたまらない人気店へと登り詰めたボンヌカフェだが、その始まりは意外なところにあった。

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はじまりは母の一言から

事の発端は、丹羽さんのお母さまが還暦を迎えた誕生日。

「母が、『喫茶店をやるのが小さい頃からの夢だったのよ』ってぽろっと言ったんですよ。そしたら僕のほうがやる気になっちゃって」

今まで経営の経験はなかったものの、迷いなく開業を決心した丹羽さん。2014年12月に神奈川県川崎市・稲田堤でボンヌカフェの前身である、二坪の小さな喫茶店Bonnel(ボンヌ)をオープンした。

この頃のメイン商品はシチューライス。
ホームパーティーで仲間が作ったシチューの味に惚れ込み、これを店で出したいと奮起したのだという。
ところが、当初の予想を遥かに上回って、サイドメニューとして用意していたホットスティックチョコレートがヒット。人気が人気を呼び、伸び続ける客足をきちんと受け入れられる環境を整えようと、2015年10月に場所を十条に移して、現在のボンヌカフェをスタートさせた。

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下町の商店と並んで

十条銀座商店街は、人情味ある活気に満ちた都内屈指の商店街。
安さを売りにする店が軒を連ねる中で、ひとつ500円を超える挑戦的な価格設定はなかなか受け入れられずに最初は苦戦した。

「このチョコの可能性を信じていたので、チラシを配ったり、大きな声で呼び込みをしたり、試食を勧めたりなど、一方的にアピールをすることはしませんでした」

丹羽さんは、店のアイコンでもあるチョコレートを路面のショーケースに並べ、立ち止まってくれたお客さまに対して丁寧に良さを伝えることを心がけたという。

その後オープンから二ヶ月ほどでじわじわとSNSなどを通じて話題は広がり、ボンヌカフェは新天地でも客足の絶えない人気店となった。

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自分を変えた新たなステージ

店を開くたび着実に成功をおさめ、ボンヌカフェの名を広めてきた丹羽さんだが、その経歴はやや異色。

「物心がついたときから歌うのが好きで、ミュージカル俳優みたいにずっと歌っていましたね。歌のほかにも、ギター、ピアノ、ベース、ドラム、楽器はひと通りやりました。意識的に音楽を始めたのは18歳のときです」

そう話す丹羽さん、実は現役の作曲家だ。

「自分のプロデュースで曲が輝くということに魅力を感じて。そこで、曲作りという裏方としての仕事の楽しさを実感しました」

音楽の仕事では裏方に徹する丹羽さんだが、飲食の仕事では人と対面する楽しさを味わっているのだと語る。

「もともとちょっと偏ったところがあるというか、人と接することは苦手だったんですけど、それを変えようと思ったんです。人と話すことで新しく自分がつくり変えられることに気づいて、今では毎日いろいろな人と会うようになりました」

カフェの開業を志してから二年、その間に出会った人たちの力添えによって今の店があると言う丹羽さん。一緒に店をつくりあげてきたビジネスパートナーたちの存在について尋ねると、こう話してくれた。

「音楽って一人でも作れてしまうんですよね。でも飲食業ってそれは絶対に不可能なんです」

商品開発や店づくりのアイディアはその都度パートナーたちと共有して意見を仰ぐという。時にはコミュニケーションアプリ『LINE』のグループトークを活用することで、拠点が離れていても時間・空間的なロスを極力省いて連携を強めることに成功している。

「ホールの仕事一つとってみても、他人同士ではなく、一人ひとりのパートナーと一緒に仕事をつくりあげていくという感覚があります」

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ボンヌカフェの立ち上げ当初からビジネスパートナーとして尽力してきた露久保翔子さんに丹羽さんのことを尋ねると、こう語ってくれた。

「冗談がつっこめないほど純粋な人。才能に溢れているけど、そんなかわいらしい一面もあるからみんな彼が気になってしまうのかも。出会った頃はバリアを張っているようなところもあったけど、今はすごく柔らかくなりましたね」

どこまでも正直で他人を疑うことはしないという丹羽さん。
その誠実さは、ビジネスパートナーやお客さまなど、たくさんの人を魅了する。
開業を決心してから現在までの短期間でここまでの成果を挙げた背景には、彼を後押しする多くの人の存在があった。

人と関わる意思をもったことで、見える景色が180度変わったと丹羽さんは言う。

「主体的になるだけで、こんなに人は変わるんだなって実感しました」

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大切な人に贈りたい「本物」のチョコレート

「おいしく食べて今日も幸せ」というボンヌカフェのコンセプト。ここに、どうしても譲れないこだわりを込めているのだと丹羽さんは語る。

「幸せってなんだろうって考えたときに、身体が健康なことがいちばん幸せだよなって思ったんです」

納得のいく品質でチョコレートを提供するため、使う材料は徹底して選び抜き、いくつもの工程を一つひとつ手作業で行っている。

「食品添加物がたくさん入っているようなものを、自分の子どもには食べさせたくない。自分の子どもに食べさせられないものは、お客さまにも食べさせられない。だから、添加物が極力含まれない『本物』のチョコレートをお出ししたいんです」

「本物」を広めるための布石として丹羽さんが決めたのが、鎌倉出店だ。

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ボンヌカフェの次なる一歩

2016年12月にオープンしたボンヌカフェ鎌倉店はJR鎌倉駅西口から徒歩一分の場所にある、テイクアウトが中心の店舗。
外からもガラス越しに見えるイートインスペースで楽しそうに食べる人の姿は、道行く人への最高の広告だろう。

「全国から人が集まる鎌倉で店を開くことで、こういうチョコレートを売っている店があるということを、今まで以上にたくさんの人に知ってもらえたらと思っています」

こだわり抜いたチョコレートを起点に人を呼び込むことで、店を構えた地域に新しい風を吹かせたいと語る丹羽さん。
新商品や新店の構想などを考えない日はないという。
開店して間もない鎌倉店でも、すでに『鎌倉ちょこまん』や『チョコしるこ』などの限定品が販売されている。もちろんホットスティックチョコレートの新フレーバーも見逃せない。

もともとは母の夢を叶えるために始めたボンヌカフェ。しかし、この二年のうちに夢はいつしか丹羽さん自身の生きがいとなった。

多くの人との出会いを経て、カフェとともに丹羽さんは今も進化し続けている。
前に進み続ける理由を尋ねると、こう話してくれた。

「素敵な人になりたいんです。それで、自分が関わった人たちも素敵になったらいいなって思います」

変化を楽しみながら、どんなときでも愚直なまでに挑戦者であり続ける丹羽さんのチョコレート。
かわいらしいフォルムから溶け出す芳醇な一滴は、一度味わったらやみつきになること間違いなし。

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Bonnel café十条店 (ボンヌカフェ)
東京都北区上十条2-23-10
03-4296-7109
11:00~23:00 (ランチ11:00〜/カフェ15:00〜/ディナー18:00〜)
第1・3月曜定休
https://twitter.com/bonnel_cafe

Bonnel café鎌倉店
神奈川県鎌倉市御成町12-11-1F
046-795-3885
10:00~20:00
不定休
https://mobile.twitter.com/bonnel_kamakura