水も、緑も、循環する マザーウォーターが守り続ける「水源」とは

水も、緑も、循環する マザーウォーターが守り続ける「水源」とは

2026.9.1配信

私たちの生活にとって、水は欠かせないものだ。蛇口をひねれば水が出て、コンビニやスーパーに行けば、いつでもペットボトルの水を買うことができる。

その一方で、その水がどこから来て、誰が守っているのかを考える機会は少ない。

一社一社に向き合う、オリジナルラベルの天然水事業

「水が湧いている場所だけが水源ではないと思うんです。山があって、木があって、森を守る人がいて、そこで暮らす人たちがいる。その全部を含めて『水源』なんじゃないかと思っています」

そう語るのは、マザーウォーター株式会社の代表取締役・本井晃一さん(53歳)。

同社のオフィスには、数え切れないほどオリジナルラベルの天然水が並ぶ。テレビ局やIT企業、プロ野球球団、人気キャラクターなど、その顔ぶれは実に多彩だ。

主力となるのが、小ロットから製造できるオリジナルラベルの天然水事業だ。企業の来客用やイベントなど、さまざまな場面で利用されている。

最大の特徴は、顧客一社一社と向き合う姿勢にある。企業やサービスのコンセプトに合わせて、水源や水質、容器の形状などを提案するほか、ロゴデータをもとにラベルデザインまで一貫してサポートする。
わずか100本程度の注文でも、一つの「作品」を作るように仕上げていく。

「他が面倒くさがってやらない面倒くさいこと。僕たちは、そういうことをやってきました 」

本井さんが水と深く関わるようになったのは、大学卒業後に入社した水処理プラント会社が始まりだ。

製鉄所や石油化学コンビナートなどで川などから取水した水を工場で使用できるよう浄化する仕事や、工場で使用した後の水を処理して自然に戻す仕事に携わった。

2014年開催の『FITチャリティ・ラン』にて配布したオリジナルラベルの天然水。

「水を使わない産業はないんじゃないかと思ったんです。水を通じて、本当に多くの業種の人と出会える。それが面白かったです」

その後、新規事業部門へ異動。“水×何か”をテーマに、さまざまな新規事業を企画した。しかし、提案しても採用されない日々が続いた。

「“あれもこれも面白い”というタイプなので、企画書はどんどん書くんだけど、なかなか通らない。それなら、自分で会社をやった方がいいんじゃないかと思うようになりました」

理想を事業に変えるまでの5年間

そんなとき、富山の温泉で出会った地元の男性から、地域の水源をめぐる話を聞いた。

「地元の水源が海外の会社に売却されそうといった話を伺って、“日本の水源は日本人が守ったほうがいいよね”と思ったんです。そこから『水源を通じて地域が元気になるようなことをやりたい』と思うようになりました。それだけで会社を作ってしまったんです」

ところが、思いだけでは事業は成り立たない。

創業当初は、自由に水を補給できるウォータースポットの設置など、環境や社会に役立つ事業を次々に企画し、企業へ提案した。

「提案に行くと必ず、『素晴らしいですね。でも、それでどうやって儲けるんですか』と聞かれるんです」

アイデアはいいのに、利益を生み出す仕組みをつくれず、厳しい時期が続いた。会社を設立して「食べていける」と感じるまでに約5年を要したという。

転機となったのは、あるIT企業から寄せられた相談だった。

「会社の冷蔵ケースに、自分たちのオリジナルの水を並べたいと言われたんです。これは面白いなと思いました」

2000年代にさしかかり、ITバブルと言われていた頃。フレッシュなベンチャー企業をアピールするためのツールとしてオリジナルウォーターの需要が高まっていた。打ち合わせの際、茶碗や紙コップに入ったお茶ではなく、オリジナルのラベルに包まれたペットボトルの水を出すのが最先端だった。

マザーウォーターは大手ドリンクメーカーが受注しない小口注文も請け負い、一緒にデザインを考え、オリジナルラベルの水を作り続けた。注文は増加し、まもなく会社の経営も軌道に乗った。

「水源」とは水や木や森だけのことじゃない

取引先の水工場から事業承継の相談を受けたのは、2018年の頃だった。

当時、マザーウォーターは数人規模の会社だった。十数人の従業員を抱える地方の工場を引き継ぐことには不安もあったが、それでも「とりあえずやってみよう」と決断した。

現在、同社は北海道、兵庫、大分などに水事業の拠点を持つ。本井さんが目指しているのは、単に水を採取し、販売する会社ではない。

「人口8000人ほどの町の水が、六本木などいろいろな場所で飲まれている。『うちの町の水があの場所で飲まれている』となったら地元の人も嬉しいですし、楽しい話じゃないですか」

地方の水工場で働く人々が、自分たちの地域の水が全国へ届けられることを誇りに思う。同時に水工場での雇用も増えていく。水を通じて地域に仕事が生まれ、人と人との関係が広がっていく。

事業を続ける中で、本井さんの「水源」に対する考え方も変化した。

「“水源って何だろう?”と自問自答し続けています。山や森、人の暮らし、それぞれがつながって循環している。その循環があって初めて水は守られる。だから私は、そこにあるもの全部を『水源』と呼びたいと思うようになりました」

水から始まった事業は、地域課題を解決する事業へと広がっている。

“現状の否定”を常に考える

新型コロナウイルスの感染拡大で企業への来客が消えると、オリジナルウォーターの需要は一時約8割減少した。

2年間にわたって赤字が続いたが、会社は事業を止めなかった。その後、コロナ禍は落ち着きを取り戻し、再び業績は上向いていく。

「“現状の否定”が常に頭にあります。今の自分たちの稼ぎ頭がなくなってしまう可能性を想定して、次の一手を考えています」

そして同社が始めたのは、紙パック入りナチュラルミネラルウォーターの専用製造ライン。これも“現状の否定”から始まった“次の一手”だ。

背景には世界的な脱プラスチックの流れがある。環境意識の高い企業を中心に、ペットボトルから紙パックへ切り替える需要が生まれていた。しかし、専用ラインへの投資額は小さくない。それでも本井さんは決断した。

水を届けることが、人との縁になる

もう一つ、マザーウォーターが大切にしている活動が災害支援である。

原点は2011年の東日本大震災だった。当時、創業間もなかった同社には、被災地を十分に支援する力がなかった。

「水が必要だと言われても、自分たちには助ける力がなかった。それがずっと心に残っていました」

2009年、NHK総合テレビで放送された環境番組『SAVE THE FUTURE』のイベントでの様子。

その後、『平成28年(2016年)熊本地震』などで水を届ける活動を開始。さらにアルピニストの野口健氏との縁から災害支援協定を結び、災害発生時には被災地へ大量の水を届け、『令和8年熊本地震』においても発災直後から野口健さんと連携を取り、36,000本を超えるミネラルウォーターを被災地へ自社トラックで直接届けた。

振り返れば、マザーウォーターの歩みは、人との出会いによって形づくられてきたと本井さんは語る。

「自分たちから積極的に声をかけてきたというよりは、お声掛けいただいたことばかりです。何かのご縁で話をいただいたら、そこへ行く。そうやって課題を解決しながら広がっていけば、面白いと思っています」

現在、単体の売上高は20億円をわずかに超える規模まで成長した。紙パック事業や海外輸出も軸に、今後は50億円規模までの成長を見据えているという。

顧客との縁、工場で働く人たちとの縁、地域で暮らす人々との縁。そして災害支援を通じて生まれた縁。マザーウォーターが大切にしているのは、そうした人の縁だ。水源は自然だけでなく、その土地に住み、水を活かし、それを飲む人たちの縁があってこそ保たれる。

水を通じてできた地域や人との縁を大切にしながら、目の前の一人ひとりと真摯に向き合うこと。そんな原動力を大切に、マザーウォーターはこれからも水を届け続けてゆく。

マザーウォーター株式会社
〒151-0053 東京都渋谷区代々木1-51-7map
03-6365-5950
受付時間:平日11:00~19:00
https://www.motherwater.co.jp/