2026.7.10配信
トレーディングカードのキラキラと輝くレアカード。その光沢の裏側に、一人の職人が何十年もかけて進化させてきた技術がある。
埼玉県川口市に拠点を置く内藤プロセス株式会社は、印刷の特殊技術で業界に革命を起こした企業だ。

2026年5月26日〜8月31日まで、神保町のショールームで開催されている展示会『Discover Miracle Print』。独自技術のプロセスやサンプルを惜しみなく公開。
同社が強みとするのは、版を用いてインキを印刷面に直接転写するシルクスクリーン印刷。平面の印刷物に動きを与える特許技術などさまざまな開発を行っている。
「武器がない」危機感が技術開発の原点に
「父が、美術の専門学校に通う甥っ子から『シルクスクリーン印刷は面白いよ』と聞いたのが、会社のはじまりでした」
創業のきっかけを語ってくれたのは、内藤プロセスの代表取締役を務める内藤正和さん(73歳)。
1971年、木工所を経営していた父と共に個人会社「アド・スクリーン印刷」を創業。その後、1981年に法人化し、2009年に現在の内藤プロセス株式会社へと商号を変更した。

高校卒業後まもなく事業に加わったが、まず知人の紹介でシルクスクリーン印刷会社に約2年間勤め、データ作成から製版、印刷まで一通りの技術を身につけてから合流した。
だが、時代はオイルショックでの不景気下。けっして順風満帆な船出ではなかった。
「当時は紙を印刷する仕事は少なかったんです。地道に取引先を開拓していました」
やがてプラスチック製品の普及とともに印刷需要も拡大し、石油会社の看板や自動販売機のダミー缶など紙以外の仕事が増えて業績は上向いた。競合他社が不動産投資に目を向けるなか、内藤プロセスは本業への投資を優先する堅実経営を貫いた。
顧客からの信頼を得ながらも、内藤さんの心中には危機感もあったという。
「『他社は10円でやっているから、内藤さんは8円でやってよ』と言われるんです。利益率は0.5%、1%と、そんな状況でした」

「仕事をしていても何も特徴がない。だから『武器を持たなければならない』と、ずっと考えていました」
下請け中心の仕事では、価格競争から逃れられない。厳しい要求にも耐えながら、内心では「今に見ていろ」と反骨心を燃やし続けた。それが、特許技術の開発へ挑む原動力となった。
初の特許を取得するも営業の成果は出ず
転機は、1990年代に訪れる。前例のない挑戦のきっかけとなったのは、偶然、知人が持ち込んだホログラム製品だった。
「見る角度によって色合いが変わる素材で。それを、シルクスクリーン印刷でやったら面白いのではないかと思ったんです」
しかし、開発は難航した。インクは気温で性質が変わるため四季を通じた検証が必要で、印刷物表面のライン設計も0.01mm単位の精度が求められた。
周囲の協力も得ながら約3年をかけて完成したのが『ミラクルビジョンプリント』だ。『レンチキュラーレンズ』をヒントに、インキを厚く盛るスクリーン印刷の技術で、印刷物に立体視覚効果を実現した。
2005年には『立体印刷物の製造及び立体印刷物』で会社として初の特許を取得。『ミラクルビジョン』の商標登録も取得した。
社外からは「面白い」と好評を得た。しかし、受注には結びつかなかった。
「取引先はこの新技術を何に活用したらよいのかわからない。高い価格も壁になりました。自分では満足していただけに、もどかしかったですね」
しかし、歩みは止めなかった。ミラクルビジョンプリントの開発経験は、次なる挑戦の礎となった。
あきらめず開発した新たな特許が転機に
「印刷物に描かれたものが動いたら、面白いだろうと。ミラクルビジョンプリントの技術を応用できると、直感したんです」
誕生したのが、特許技術『フラッシュビジョンプリント』だ。前作の技術を進化させ、透明インキで微細な模様を表現できるほか、1枚の印刷物に複数の異なる模様をあしらうことも可能になった。

「実際に動いた時は感激しました。『よし、これなら売り込める』と確信しました」
それまで、営業先では、「お宅の特徴は何ですか」と聞かれても答えられなかった。しかし、新たな特許技術によって状況は変わる。雑誌掲載をきっかけにメーカーからの問い合わせが増え、“武器”が初めて生まれた。

FVPに箔をほどこした『FVP箔』。立体的なきらめきを表現することが可能。
さらに、技術開発は続く。ヒントとなったのは、写真などの印刷で起きるエラー「モアレ現象」だった。
試行錯誤の末に完成したのが、見る角度によって表面の絵柄が変化する『チェンジング』だった。
「社員も力を尽くしてくれたんです。全社一丸となって、完成したときの達成感はひとしおでした」
しかし、喜びも束の間だった。大手家電メーカーとの取引が最終局面まで進んでいたが、2008年のリーマンショックによって話はすべて白紙に戻った。折しも工場の移転と設備投資を終えたばかりで、返済に追われる日々が1年半ほど続いた。
国立印刷局との共願で新規市場を開拓
それでも、内藤プロセスは突き進んだ。
チェンジングの開発では、思わぬ出会いも生まれた。特許調査を進めるなかで、国立印刷局が類似技術の特許を保有していることが分かったのだ。
「お札に使われている技術だったんです。ただ、私たちはお札だけではなく、名刺など別の使い道も考えていました」

正々堂々とやりたいと思った内藤さんは、みずから国立印刷局へ連絡し、技術者らと協議を重ねた。
「結果的に、弊社の技術は国立印刷局が持つ特許とは微妙に異なることが分かりました。そして、先方から共願のご提案をいただいたんです」
2014年に国立印刷局との共願で「チェンジング画像印刷物」の特許を、2015年にはフラッシュビジョンプリントに関する「微細線模様の成形方法」の特許を単独で取得した。
さらに、需要はトレーディングカード市場へと広がった。

「最初の1社が決まると、他のトレーディングカードメーカーの方も『面白い』と言ってくれて、顧客も自然と増えていきました。国立印刷局との共願であったのも、信用につながったと思います」
今では国内の主要なトレーディングカードに内藤プロセスの技術が使われている。
かつて武器がなかったはずの内藤プロセスは、唯一無二の技術により「選ばれる企業」へと発展していった。
業界の「外」を見れば可能性は切り拓ける
近年、印刷で培った知見を活かし、空間プロデュースなど新たな領域へと事業を展開する同社。その礎には「万有印力」という、企業理念がある。
「すべては印刷からはじまり、印刷の力で人やモノを引き寄せる。弊社の歴史と精神を表しています」

「他の印刷手法が一歩先、二歩先までしか行けないとしても、シルクスクリーン印刷は五歩先、十歩先にまで行ける可能性があると思っています」
業界団体の会長も務める内藤さんが、同業者に繰り返し伝えている言葉がある。
「私からは『業界の外を見てください』と伝えています。外を見れば、仕事はたくさんある。イメージにある紙媒体の印刷だけを追いかけていたら頭打ちになりかねませんし、市場を切り拓くのは自分自身ですから」

ノルウェーの森に生息する天然の苔(こけ)を用いた建材『NORDIC MOSS」などの提案で、新たに空間プロデュース事業へと乗り出す。
一時は価格競争に苦しみながらも「今に見ていろ」の精神で、時代を乗り越えてきた内藤プロセス。原点となるシルクスクリーン印刷へのこだわりはそのままに、特許技術によって新たな価値を生み出す挑戦はこれからも続いていく。
内藤プロセス株式会社
埼玉県川口市東領家2丁目16番地8号 map
048-224-7145
http://www.naito-p.co.jp/


