流行に流されない BEERBELLYのものづくり精神

流行に流されない BEERBELLYのものづくり精神

2026.3.2配信

上質な革と確かな縫製、使い心地の良さ、そしてユニークな遊び心。ハンドバッグや財布などのファクトリーブランド『BEERBELLY(ビアベリー)』が人気を集めている。

50年以上にわたって足立区に工房を構える革製品メーカー・株式会社ヤング。BEERBELLYは、同社から2012年に誕生した自社ブランドだ。

「職人の視点でものづくりができる場所になれば、と思って立ち上げました」

そう語るのは、株式会社ヤング代表取締役で、BEERBELLY代表の若井啓考(ワカイ・ヒロタカ)さん(47歳)。

こだわりは、職人集団から生み出される品質の高さと独創的なギミック。思わず手に取りたくなる仕掛けが満載の、わくわくする商品ばかり。

シンプルで使いやすく遊び心満点のBEERBELLY製品

HATCHBACK (ハッチバッグ)税込 20,500円』はBEERBELLYの代表的な商品の一つ。

コンパクトで飽きを感じさせないシンプルなデザインで、札入れを開けなくてもコインポケットの手前から札を取り出すことができる“紙幣マジック”がポイント。

カラーバリエーションは20種類以上。使い込むほど深みのある色に変化するのも魅力だ。

DOUBLE FLAPS(ダブルフラップ)税込30,000円~』は、二つのフラップがそれぞれ別の部屋にアクセスできるユニークなデザインのクラッチバッグ。ヨーロッパのカフェのウェイターが使っているバッグをモチーフにしたという。Sサイズ、Mサイズのほか、同じ構造の財布も展開する。

TRAVELTRAY(トラベルトレイ)税込 8,200円~』は革製のメガネケース。四隅のボタンを止めると、トレーに早変わり。旅先などで時計やアクセサリーをまとめておくことができる。パスポートケースとしても使用可能だ。

ハイブランドにも指名されたヤングの高い技術

BEERBELLYの高い品質を支えているのが、長年にわたって培われてきたヤングの技術力だ。

ヤングが創業したのは1970年。若井さんの父・日出男さん(84歳)が墨田区で立ち上げ、やがて現在の足立区に移転した。足立区はレザークラフトなどの職人が多く住む“ものづくりの街”として知られている。

革製品の製作に関して高い技術を誇るヤングは、国内外ブランドのOEMを手がけ、欧州のハイブランドの修理工場にも指定されている。

創業以来、ヤングの売り上げは好調だったが、バブル崩壊後に状況は一変。1995年以降、海外工場による大量生産やOEM先ブランドの百貨店低迷が重なり、業績は右肩下がりに。

仕事の内容や価格を自分たちで決められない OEMでは、業績回復は難しい。OEMから脱却すべきだという思いはありながらも、長年OEMを主軸にしてきたヤングにとって、 “脱OEM” は簡単な挑戦ではなかった。


「こんなバッグが欲しい!」意気投合した仲間とブランドを立ち上げ

専門学校を卒業後、先代社長である父のもとで職人として修行を始めた若井さんは、ある助言をもらっていた。

「父からは『自分たちでブランドを立ち上げなさい』と早い時期から言われていました。でも、どうやればいいかわからないし、自分から何かを発信するのも得意じゃない。だから、そのままにしていたんです」

その頃、若井さんは専門学校時代の一学年後輩、小山尚貴(コヤマ・ナオキ)さん(47歳)と出会う。たちまち意気投合した二人は、感性も作りたいものもぴったりと合っていた。

「ベルト職人だった小山と毎週飲んでいるうちに、“こんなバッグがあればいいよね”という話題が出るようになり、お互いに“宿題”を出すようになって、実際にスケッチを描いて持ってくるようになったんです」

2012年、もともと立体物を作ってみたいという意欲があった小山さんがヤングに入社。若井さんは小山さんとともに自社ブランドBEERBELLYを立ち上げる。

“ビールっ腹”を意味する不思議なブランド名は、仕事が終わった後の工房でビール片手にアイデアを語らう“ビール会議”が元になっている。ロゴマークのビールおじさんは若井さんが描いたものだ。

「ブランドは、ぱっと湧いたイメージを発表する場にしたかったんです。 工房にいろいろな職人が集まって、ビールを飲みながらリラックスした雰囲気でアイデアを出し合っていました」

「面白がってくれる人たち」が広めたBEERBELLY製品

少しずつファンを増やしていったものの、コロナ禍では再び厳しい状況に直面する。

「外に出ることがなければ新しいバッグを買うことはありませんからね。材料費も上がっていきますし、楽な時期はそんなにありませんでした。」

そんな中で、大きな転機となったのが、『フリースピリッツ』との出会いだった。

フリースピリッツは、神戸を拠点とする革小物の販売サイト。コロナ禍に力を入れていた動画配信でHATCHBACKが紹介され、認知が一気に広がった。

「いくつもの会社さんから打診されましたが、一番ウマが合うと感じたのがフリースピリッツさん。僕たちの雰囲気をすごく理解してくれているし、革製品の扱いもわかっている。販売を一社にお願いできているので、製作に集中できるのがありがたいですね」

現在はBEERBELLYがヤングの売上の8割を占める。若井さんが「できるわけがない」と思っていた“脱OEM”も少しずつ現実味を帯びてきた。

小山さんは「僕たちの製品を面白がってくれる人や会社が増えている実感がある」と語る。

2023年には北千住に工房併設の店舗『フォーセット』をオープンした。ユニークな名前はアメリカ英語で『蛇口』という意味。ひねれば素敵なグッズとアイデアが溢れ出すような店だ。

流行を追わない“職人目線”のものづくり

使いやすさを重視しつつ、職人たちの自由な発想を生かしたものづくりが、BEERBELLYの特徴だ。
「デザイナーの発想ではなく、職人の発想ですね」と若井さんは語る。

ベースにあるのは、「自分たちで本当に使いたいものを作る」という考えだ。小山さんも、基本的に自分たちが日常で使うことをイメージしながら製品を生み出しているという。

「OEMは依頼していただいたお客さまありきですが、BEERBELYは“僕たちのもの”という意識があります。自分たちが本当に使いたいものを作るというのは僕たちのこだわりですね。どんな材料を使うかも、自分たちのこだわりを貫いています」

「BEERBELLYは、流行を追っていない」と若井さんは続ける。

「僕たちはデザイナーじゃないので、“今こういうものが流行っているから作ろう”ということができないんです。バッグの大きさも自分たちの体格に合わせて作ることが多いですが、女性のメンバーもいますし、お客様のリアクションを見ながら調整して、異なるサイズの製品を出したりしています」

こうした姿勢の根底にあるのが、「できないことに無理に挑戦しない」という考えだ。

「大切なのは、自分たちのファッションや感覚に合うものを作り続けることですね。僕みたいな人がモードっぽいバッグを作っても、嘘モードになってしまうと思うんです」

「“思っていたのと違った”と嫌われたら嫌だなと思って。そういうことが起こらないようにする工夫ができたらいいなと思っています」

こうした価値観こそが、BEERBELLYの商品設計やブランドの雰囲気を形づくっている。

「いいものを必要な人に届けたい」

これからの展開について尋ねると、「夢のない話ですけど」と前置きをし、こう続けた。

「現状維持がいいと思っています。時代に左右されず、この活動を10年、20年と長く続けられれば、とても幸せだと思います。拡大していくことより、もっと難しいことだと思いますから」

職人の目線で、使いやすくて面白いものを自由な発想で作り続けていくBEERBELLY。感性が合う職人たちが作り上げたいいものを、感性が合う人々のもとへと送り続けていくこと。モノが溢れている今の時代に大切なことを教えてくれる。

BEERBELLY(フォーセット)
東京都足立区柳原1-5-3
木~土曜日:13:00~20:00
日曜日:13:00~17:00
定休日:月~水曜日、祝日など
HP :https://beerbelly.young1970.jp/
Instagram :https://www.instagram.com/beerbelly.beeer/
X :https://x.com/FaucetBeeer