あっという間の65分!「逃走中 THE STAGE」が魅せる子どものための舞台とは

あっという間の65分!「逃走中 THE STAGE」が魅せる子どものための舞台とは

小学1年から高校3年まで男女11人の子どもたちが、突如渋谷をモチーフにしたバーチャルタウンSHIBUYAに集められた。大型ビジョンに映し出されたゲームマスターの月村ラビトは次のように告げた。

「黒スーツ姿のハンターから50分間逃げ切れれば、賞金100万円をゲットできる」

逃走シーンに注ぎ込まれた驚きの演出

『逃走中 THE STAGE』は、フジテレビ系番組『run for money 逃走中』を原案にした、スピード感あふれる舞台だ。

テレビ版のディレクター経験を持つ株式会社PLANET KIDS ENTERTAINMENTの代表取締役・伊藤秀隆さん(45歳)が、フジテレビに企画を提案して実現した。

「追っかけっこを舞台上でどう表現するかっていうのが今回の一番の見せ場だと思っています」

渋谷のスクランブル交差点に見立てた舞台装置がシーンに応じて何度も転換し、迷宮感を醸す。

神出鬼没のハンターをまこうと、四方八方から役者が飛び出したり、隠れたり。出演者が立ち位置を頻繁に変えながら、手に汗握る駆け引きが繰り広げられる。

近未来的なプロジェクションマッピングを背景に、力強い音に合わせて足踏みすることで、全力の逃走劇を表現した。

「僕が高校生のとき、音速の超人たちが競い合う芝居を見て、“演劇ってこんなことできるんだ”って衝撃を受けたんです。その驚きを今の子たちにも体感してほしいなって」

観客を巻き込んだパートもステージを盛り上げる。

逃走者が進む方向を迷う中、状況説明を行うディレクター役が「右、左、右、右、左」と大きな声を掛ける。観客が掛け声とともにペンライトやうちわを動かすと、会場全体がお祭りのような一体感に包まれる。

ストーリーの核は子どもの夢の応援

憧れや挫折、友情、恋、ユーモアといった要素が絡み合いながら物語は快走する。

バスケットボールで強くなりたい、洋服が欲しい、高級レストランに行ってみたい――。みな、お金の先にある夢のために走る。

周りの人と協力し、助けあいながらミッションをクリアしていく子どもたちの姿に、わが子の姿を重ね合わせる人も少なくないだろう。

伊藤さんがこの作品を作ろうと思ったきっかけは、約2年前に誕生した第一子だったという。

「自分の子どもがコロナ禍に生まれたというのもあって、“子どもが楽しめる子どものための舞台”をやろうと思ったんです」

脚本や登場人物はオリジナル。小学生でも理解できるストーリーを軸に、老若男女問わず楽しめる演出が詰まっている。

ハンターは客席側の通路に姿を現すこともあり、緊迫感が伝わってくる。

『Run for Dream』は、自分を見失いそうになっている人が聴くと元気が出る曲。アップテンポな曲『follow me!』『逃げ勝ち』に合わせて少年少女が踊るダンスは、キレがあり見ているだけで刺激的だ。

「ハラハラ、ドキドキしながら感動して、最後にダンスで盛り上がる。その感覚を体感してほしいですね」

YouTube活用で公演前から子どもの心をわし掴み

プロモーションは、テレビ番組内の告知からYouTube、チラシまでさまざまな手段を駆使している。

初演の約3ヶ月前に『逃走中 THE STAGE ちゃんねる』を開設し、出演者による脱出ゲームを公開した。

この番組の総合演出はテレビ『逃走中』制作時からの仲であり、伊藤さんが最も信頼するディレクター・山川泰一氏に依頼。他にも番組制作時に苦楽を共にしたスタッフが大勢集まった。

おかげで子どもを中心に大きな支持を集め、チャンネル全体の総再生回数は82万回以上に達した。(※2022年6月20日時点)

キャストや楽曲等を紹介することで前知識がつき、観劇する際、一気にストーリーへ入り込むことができる。

「今まで舞台に接したことがない子たちに見てほしい気持ちが大きいです。これをキッカケに、他の舞台を観てみようという子が増えればいいなと」

演劇を観に行くとなるとチケット代が懸念されるが、家族で楽しんでもらいたいという想いから価格を3500円(税込)に設定した。

「他社さんから、こんなに安くやれるの!?と驚かれます。無駄をそぎ落としてシンプルにやっているので」

伊藤さんが現場に入れないときも、昔から演出助手などを務め志向性を熟知している演出家チームが稽古を進行させたり、現場の統括や映像演出、振り付けなど要となるポジションに信頼するスタッフを配置することで、40名以上のスタッフ全員が演出の方向性を把握できるようなチーム作りになっている。

「僕がいなくても、最初に思い描いた作品が完成できるように心掛けています。演出家としてはそれどうなの?って思いますが。笑」

このように最初からビジョンを全員で共有し、余計な外注が発生しないことがコスト削減につながっているのだ。

総合演出・プロデュース・脚本という立場でありながら、伊藤さん自身も宣伝に汗を流す。上演地周辺の小学校に直接電話をかけて、チラシ配布の協力をお願いしたのだ。ある学校の校長先生は「逃走中の制作者が電話をかけているんですか」と感動されたそう。

埼玉、千葉、神奈川での公演が終了し、8月には東京、大阪、静岡、岐阜、福岡で公演予定。7月2日(土)から先着でチケットの一般販売が行われるので、申込や詳細は公式サイトまで。

映画と演劇で培ったコンテンツ制作力

幼い頃からごっご遊びや映画が好きで、次第に映画の道を志すようになった伊藤さんは、高校卒業後に渡米。1998年にカリフォルニア州にあるオレンジ・コーストカレッジにて映画制作サークル『Planet Kids』を結成した。

その後、オレンジ・コーストカレッジ時代の映画製作の功績が認められ、2002年度文化庁の在外芸術家研修員に認定。その制度を利用して目標であった「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のロバート・ゼメキス監督や「スター・ウォーズ」のジョージ・ルーカス監督を輩出したことでも知られる南カリフォルニア大学映画学部に編入。

留学時代や帰国後に立ち上げた劇団PKシアターの仲間を中心に、同社を設立。プロジェクトごとにフリーのクリエイターや役者のネットワークを生かして様々なプロジェクトに挑戦。

映画やCM、脱出ゲーム、プロジェクションマッピングを駆使した飲食店プロデュース、アニメや漫画が原案の2.5次元舞台など、さまざまなコンテンツを手掛けている。

例えば、キャラクターCDシリーズをベースにした2.5次元ダンスライブ『ツキステ。』は、国内だけでなく上海や台湾でも公演された。

「世界で勝負するには、外国のマネじゃなくて日本の文化を背負わないと通用しないと思います」

日本のエンターテインメントが置かれた立場を冷静に分析しながら、映画や演劇の分野で文化祭みたいにワイワイ楽しく仕事をやっていたいと笑みをこぼす伊藤さん。

キッズのような遊び心を胸に秘めながら、グローバルな視点でエンタメ作品を作り続ける。

逃走中 THE STAGE
https://www.tosochu-sta.com/

株式会社PLANET KIDS ENTERTAINMENT
東京都板橋区板橋1-53-12 板橋ビュータワー2204 map
http://www.pkfilm.com
GAME:http://www.pkth.net