北区土産にあん食パン。話題をさらう老舗コラボ「明壽庵」

北区土産にあん食パン。話題をさらう老舗コラボ「明壽庵」

朝10時、東京都北区・東十条銀座商店街の一角をめがけて、続々と人が集まってくる。行列の先にあるのは、2021年5月にオープンしたあん食パンのお店『明壽庵(めいじゅあん)』だ。

手に取って感じる、あんの重み。そのまま何もつけずにがぶっと一口。風味豊かなパン生地とまろやかなあんの甘みはまさに黄金バランスだ。

パン×和菓子×北区王子

明壽庵は、北区王子の人気ベーカリー『明治堂』が地元の和菓子店『石鍋商店』と『王子製餡所』とコラボレーションしたお店。明治、大正時代からの歴史を誇る老舗3社のネームバリューは絶大で、プレオープンするやいなや大きな話題となっている。

「明治堂は地元のお客さまに長年育ててもらいました。地元の人が胸を張ってギフトにできるような商品を発信していきたいですね」

そう語るのは明治堂4代目店主の長男で、同店を企画した中山公人さん(36歳)。“和菓子のような歴史と繊細さ”というコンセプトのもと、あん食パンとフルーツあんサンドを専門に提供している。

地元の名産を凝縮

あん食パンの発酵種には、なんと石鍋商店の看板商品『久寿餅』の原料「発酵小麦デンプン」を加える。

中山さんに詳しく聞くと、北海道産のミルキーな小麦粉に、一般には水を使うところ高脂肪牛乳、油脂はバターのみを使用している。それだけでも濃厚な高級食パンになるが、さらに特有のモチモチ感や甘い香りがするのだという。

「石鍋さんの久寿餅って、そのときの原料の質や季節ごとに巧みにブレンドを変えていて、一定のおいしさになるよう苦労されているんです」

あんの製造・卸売、あんドーナツなどを工場直売する王子製餡所からは、明治堂でも長年愛用している粒あんとこしあんを仕入れている。隠し味のきなこを振りかけ、味に深みを出すのがポイントだ。

3つのあん食パンに舌鼓

明壽庵のあん食パンは全3種類。店名を冠した『明壽庵』(1300円/ハーフカット700円税込)は、こしあんをたっぷり生地に巻き込んだ一番の人気商品。

『抹茶明壽庵』(1400円/ハーフカット750円税込)は、抹茶の苦みが粒あんによくマッチした大人の逸品。抹茶によって生地がしっとりし、パウンドケーキのような口当たりになっている。焼いて、マスカルポーネチーズを乗せて食べるのが中山さんのおすすめ。

『あずき明壽』(1000円/ハーフカット550円税込)は、粒あんを直接生地に練り込んだ珍しいあん食パン。ほんのりした甘さなので、飽きずにいくらでも食べられてしまう。甘くない具材と合わせて、サンドイッチにしてもおいしいそうだ。

どれも生のままでも焼いても絶品で、違いを楽しむことができる。1本なら8枚切り、ハーフカットなら4枚切りにすると、きれいな渦巻模様が出て、あんの分量がちょうど良く食べられるそう。

賞味期限は常温で3日間、スライスして冷凍すれば1ヶ月ほど保存ができる。

ルーツから得たヒント

数年前から支店を出したいと考えていた中山さん。「明治堂にしか作れない、王子でしか出せない味とは何か」を模索し、地元のあらゆる名産品をリストアップ。はじめに考案したのがこの3社の組み合わせだったという。

「うちの創業者は、あんパンを考案した木村屋で修業してパン作りを覚えました。そんなルーツもあって、和菓子のような唯一無二のパンを一緒に作りたいとご提案したところ、『面白いね』と応援してくださることになったんです」

人気スイーツにもオリジナリティ

かぶりついたら中身があふれ出しそうな『フルーツあんサンド』(500円税込)は、あん食パンに引けを取らない人気商品。王子製餡所の粒あんが入っているのが特長だ。

『キウイ・マスカルポーネ』『ミックス・マスカルポーネ』『季節のフルーツ』は、マスカルポーネホイップクリームをあずき明壽でサンド。

『イチゴ・あんホイップ』『バナナ・あんホイップ』『ブドウ・あんホイップ』は、粒あんを混ぜたホイップクリームをあんの入っていない『プレーン食パン』でサンドしている。

食パンに直接あんを塗ると、甘みが強く出てしまったり、クリームとあんが別々に口の中に入った感じになってしまう。こうした試行錯誤を重ね、完成したフルーツサンドはどの果物とも見事に調和がとれている。

王子の味をたくさんの人に

1日に焼き上がるのは、明壽庵が約80本、抹茶明壽庵が約60本、あずき明壽とプレーン食パンが各約100本。飛ぶように売れるので、常に品薄状態が続く。手作業で成形している間にどんどん発酵が進んでしまうため、1度に焼ける本数に限界があるのだという。

「わざわざ足を運んでくださった方をお断りするのは心苦しいので、需要と供給が落ち着いてきた段階で予約も開始しようと思っています」

中山さんの夢は、明壽庵が王子のギフトとして全国に広まること。まずは、北区内に支店や販売所を増やしていく展望だ。

店内には、榎(エノキ)の木で作られたカウンターと椅子が配置され、ギフト用の紙袋には、キツネのシルエットが描かれている。

これは、王子の民話『王子の狐火』をモチーフにしている。毎年大みそかの夜、関東各地から集まってきたキツネたちがエノキの木の下で装束を整え、王子稲荷神社に参詣したという伝承だ。

「エノキの木のように人が集まるような、地域に長く溶け込んでいけるお店になっていきたいですね」

甘いパンに詰まった老舗のこだわりと地元愛に、頬がゆるむ。

明壽庵
東京都北区神谷1-25-6 map
10:00~19:00(完売時は時間前に閉店)
水曜・木曜定休
https://www.instagram.com/meijuan_tokyo/