肉好きを唸らせる絶品の味 あの超人気店の“焼肉の革命児”が作る究極のハンバーガーとは!?

混じりっ気なしのシンプルな肉のおいしさを表現したかった

昨年12月、肉好きの間で話題騒然のハンバーガー店が代官山にオープンした。その名も「HENRY’S BURGER(ヘンリーズ バーガー)」。

ただの、ハンバーガー店と思うなかれ。じつはここ、テレビ番組で「焼肉店店主が選ぶおいしい焼肉店」1位に選ばれ、食通から政治家までもがこぞって訪れる「炭火焼肉なかはら」(市ヶ谷)が手がける店なのだ。

前身は“三ノ輪の名店”と称された「七厘」。2014年11月に移転以来、予約が殺到し、現在でも数ヶ月先まで予約が埋まる“伝説”の店がプロデュースしたとあって、早くも各方面から注目を集めている。

オーナーの中原健太郎さん(39歳)は言う。

「子どもの頃にアメリカで育ったんですが、あっちではバーベキューの時に肉をバンズに挟んで食べる。これが、僕にとってハンバーガーの原体験。どの家でも『うちのお父さんのハンバーガーは最高においしいのよ』って言う。たいてい、まずいんだけどね(笑)」

こうした体験から、ハンバーガー屋をやりたいという思いはもともとあった。また、焼肉店で一頭買いした国産黒毛和牛には、どうしても焼肉に適さない部位が出てくる。ならば、それをミンチにしてハンバーガーのパティにすればいいじゃないか。

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とはいえ、肉のプロだけにこだわりは尋常ではない。レシピの完成までには半年がかかった。

「焼肉店とまったく同じ、脂が軽い肉を使うので、そのまま作るとボロボロになる。つなぎを入れればいいんですが、ハンバーガーに関しては和牛100%で、混じりっ気なしのシンプルな肉のおいしさを表現したかった」

試行錯誤の末にたどりついたのが、アメリカのバーガーショップでは主流の「スマッシュ」という手法。肉厚の8mmにミンチしたパティを鉄板に乗せ、専用のプレス機で圧をかける。さらに、裏返してコテで脂を切るように押す。すると、形を保ったまま両面がカリッと焼ける。味付けは塩コショウのみだ。

「ジューッ!ジューッ!」という音が響くたびに、店頭で待つお客さんが厨房を覗き込む。

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吟味を重ねた食材が絶妙のハーモニーを奏でる

一方で、ハンバーガーの味と食感を大きく左右するバンズにも苦労した。最近の既製品はリッチになっているため、主張が強すぎるのだという。

「最終的には、偶然知り合った高田馬場のベーカリーカフェ『馬場FLAT』のオーナーさんに特注で作ってもらいました。エアリアルな、でもちゃんと香りも入っていて、麦はもちろん国産。これがまた絶妙なバンズなんですよ」

さらに、レタス、トマト、チーズ、そしてオリジナルのオーロラソースを加えれば、吟味を重ねた食材が絶妙のハーモニーを奏で、究極のハンバーガーが完成する。

店舗面積が10坪と狭いため、基本はテイクアウト(店内に4席あり)。メニューは、パティが1枚の「COMBO A HENRY’S BURGER(1080円)」と、パティが2枚の「CONBO B HENRY’S BURGER(1350円)」。ともに、フレンチフライとドリンクが付く。

いざ食べてみると、ほどよく甘いバンズ、みずみずしい野菜、そしてこれでもかというほど肉々しいパティを、上品なソースがやさしく包み込む。中原さんのハンバーガーへの思いが凝縮した一品だ。

「職人を置かないというのも、じつは初めての試みなんです。よくチェーン店はダメだとおっしゃる人もいるけど、きちんとしたオペレーションを組んで、従業員をちゃんと教育すれば、事業形態もさらに拡大できるはず」

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会社の上司とそりが合わなくて7カ月半で辞めちゃった

ここで、ちょっと脱線を。いまや“肉の神様”として業界では知らない人がいない中原さんだが、焼肉の世界に入ったのは27歳の時だった。

アメリカで生まれ、やがて東京に移住する。中学校からエスカレーター式に進学。大学卒業後はテレビ局に就職するという“スーパー優等生”の道を歩んできた。

「でもね、会社の上司とそりが合わなくて7カ月半で辞めちゃったんですよ(笑)。思えば、大学の頃から学校には行くけど授業は受けないタイプ。中庭で寝転がって、このままでいいのかなあなんて考えたり」

退職後は親に頭を下げて実家に戻り、悶々とした日々を過ごす。やがて、できることからやっていこうと思い直し、様々な職種で働いた。そのひとつであるバーの仕事で、現在の奥様と偶然再会する。

「彼女の実家が三ノ輪の『七厘』という焼肉店で、学生の頃によく行っていたんです。店が空いている時でも、僕らががんがん食べると食材がなくなっちゃう(笑)。それを家内は覚えてた」

結婚と同時に焼肉店を継いだ。

「お客さんも来ないから本当に貧乏で、3、4年、もっとかなあ。なかなか売り上げが上がらなくて、銀行からの借り入れもなんとか返してるって感じで、キツかったです。あの頃のことを思い出すと吐きそうになる(笑)。近隣へ弁当を売りに行ったりとかもしましたが、全然割に合わないんですよ」

このままじゃダメだと、中原さんは一念発起する。「売り上げが前年比120%に増えなかったら店を畳む」と決めた。尻に火がついた状態でがむしゃらに働いた結果、30歳を過ぎたあたりから軌道に乗ってきた。前年比120%という目標は、現在に至るまで達成し続けている。

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まっすぐに自分を出して、お客さんに認めてもらう

肉と真摯に向き合う。そんな思いとともに、中原さんは“経営者”から“職人”へと変貌を遂げる。

やがて、「七厘」は「三ノ輪に名店あり」と称されるほどの店となり、グルメサイト「食べログ」の焼肉部門では、都内で1位、全国で2位という焼肉界のトップランカーにまで上り詰める。いわば、焼肉界に革命を起こしたのだ。

そして2014年11月、店舗は市ヶ谷に移転し、新たな場所で肉との戦いが始まった。

「僕の中で、ここは焼肉屋というよりは肉屋にしたかった。国産黒毛和牛を使った焼肉はもちろん、カツ丼も寿司も出す。牛一頭買いがベースにあって、それをトータルでどう表現するかということに挑戦したんです」

まったく未経験の状態でこの世界に入る。毎日市場に通うものの、卸売業者は相手にしてくれない。

「最初は、まったく見当違いのものを選んでいましたね。それでも、しつこく話しかけるうちに業者のオヤジもだんだんと教えてくれるようになって。とはいえ、枝肉の処理なんかは『自分でやれ』と言われるので、本やネットで必死にやり方を調べる。『ああ、バラ一枚だとこういう部位が取れるのか』というところからのスタートでした」

最終的に、中原さんがしたかったのは寿司屋と同様に「仕事を晒す」こと。これが、お客さんと向き合うことになるという。そのためには、常にネタの勉強が欠かせない。魚をおろせない寿司屋はいないが、肉を磨けない肉屋はたくさんいる、という危機感がそこにある。

「昔は、いい子にしなきゃいけないのかなというのがあったけど、僕なんか“ろくでなし”ですから。まっすぐに自分を出して、お客さんに認めてもらうことしかできない。嘘をついていないんだから、全員に愛されなくてもいいじゃないかと、ある日突然切り替えたんです」

そんな“焼肉界の革命児”が完成させた究極のハンバーガー。周囲の期待度が高いだけに相当なプレッシャーがあったというが、本人が太鼓判を押す絶品であることに間違いはない。バンズとバンズの間に凝縮された、肉への熱い思いをぜひご堪能あれ。

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HENRY’S BURGER(ヘンリーズ バーガー)
東京都渋谷区恵比寿西1-36-6
03-3461-0530
11:00~20:00
http://henrysburger.com/